機動戦士ガンダム 水星の魔女 二次創作 最終話『祝福を君と』

最終話 祝福を君と

 前段

 スレッタとエアリアルを復讐に駆り立てようとした母、エルノラとの確執を断ち切り、共に相互理解を諦めず、「ガンダムを肯定する世界」を作るべく奔走を始めたアスティカシア高等専門学校の生徒たち。

 エルノラは復讐ではなく我が子の生きる未来のために、対話という選択肢を選び、評議会と世論の理解を得るべく大演説を行う。

 スレッタとエアリアルのこれまでの活躍とパイロットへの負担がない稼働法の確立により、世界はガンダムを、「技術革新の先にあるシステムとの共生」を受け入れようとしていた。

 しかし、その結末を許容できないデリングは、スレッタの所属する部隊(クラスメイトで構成されている)に奇襲をかける。

 戦えば「勝ててしまう」。ガンダムの強大さと恐怖を、今、世に知らしめるわけにはいかない。

 しかし、戦わずに逃げてばかりでは、生まれて初めて通った学び舎で友情を育んできた友人らは死んでしまう。

 スレッタとエアリアルが選ぶ答えは・・・


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 本編

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 輸送艦・スレッタの私室

 「3番機、シグナルロスト!右翼、これ以上持ちません!」

 「左翼の機体を回せ!いいか!なんとしても評議員の議決まで持ちこたえるぞ!」

 ブリッジを飛び交う怒号が、ヘルメットに内蔵されたスピーカから聞こえてくる。

 皆が命を張って戦っているその現実から目をそらしたくて、体育座りの様に膝を抱えたまま宙を漂う。

 

 私は、確かに選んだ。エアリアルと、学校の皆と、お母さんと一緒に、皆が笑顔で居られる未来のために、この決断をした。

 他人に決められた生き方や、しがらみにとらわれた行動ではなく、自分の望んだ明日のために、お父さんたちを殺した人達に銃ではなく、背を向けた。いつか手を差し伸べられるように。

 でも、これで良かったんだろうか?

 もしエアリアルと一緒に、あの人たちを殺める選択をしていたなら、学校の皆は傷つかなくて済んだかもしれない。お母さんはあんな風に泣かなくて済んだかもしれない。

 きっと、今失っているもののいくつかは、取りこぼささなくて済んだ、と思う。

 

 でも、皆が背中を押してくれた。私が迷っているとき、ミオリネがそれを断ち切ってくれた。

 あの時確かに、それが一番いいと思った。そうだったらいいなって、想えた。水星に居た頃、エアリアルのコックピットで見ていたアニメのような、優しい世界が実現できるなら。

 みんなで手を取り合って、語り合える日を迎えるために、この道を進むことを選んだ。

 それでも、こうして皆が戦っている間、自分だけが何もできないのは、とても、辛い。

 戦わないということが、こんなに辛いなんて、思わなかった。

 今、ガンダムが戦場に出て人を殺めてしまったら、全てが台無しになる。

 大勢の人たちが、ガンダムという記号を怖れてしまう。

 それは、いやだ。

 皆に知ってほしい。GUNDフォーマットは、決して呪われた兵器なんかじゃないってこと。おばあちゃんやお父さんが、たくさんの人を救いたいという希望の象徴だってこと。

 お母さんが言っていたように、技術とどう向き合っていくのかは、いつだって人の手に委ねられているんだから。

 でも、私達が一番望むのは、家族と一緒に居られる明日。ただ、それだけ。

 その為に、今私は、エアリアルは、戦えない。

 無力な自分を嘆いて、皆の無事を祈るしかないまま膝を抱える手に力が入るのを感じていると、怒号の中から違う感情の声が聞こえてきた。

 「えっ?カタパルトハッチ、開いてます!」

 ブリッジの通信士が、困惑の声を上げている。

 「何?!まさか・・・」

 震える声が発したその名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。

 「コントロール効きません!エアリアル、発艦します!」

 「っ!!」

 壁を蹴って床に足をつける。

 「スレッタか?!我慢できなかったってのか。全部台無しになるぞ!」

 通路の壁を蹴って、ブリッジに転がり込んだ。

 「エアリアルが出たって、どういうことですか!?」

 「スレッタ?!じゃあ、エアリアルに乗ってるのは・・・?」

 瞬間、可能性がフラッシュバックする。

 「まさか、ミオリネ・・・?嘘、そんな、ミオリネっ!応答してミオリネ!!」

 出会ったあの日を思い出す。エアリアルを勝手に持ち出したミオリネは、運命に抗って自分の望む未来を手に入れた。

 ミオリネは聡明だ。自分一人が出撃しても、戦局を変えられないことは分かっている。だから、ここで彼女が戦場に出たという状況が意味するのもは――

 「でも、そんな、ダメだよ!エアリアルだって。お願い、帰ってきて!ミオリ」

 「違うわよ。ちょっとは落ち着きなさい」

 最悪の想像が脳裏をよぎったけど、そうではないことをブリッジに入ってきた本人が告げてくれた。

 「ミオリネ!」

 「スレッタ、私達は選んだでしょ。この道を。なら、もう進むしかない。たとえ、犠牲を払ってでも」

 「犠牲・・・?ミオリネ、エアリアルが出撃したこと、何か知ってるの?誰がっ」

 「ええ。どうしてもって聞かないから――どうしてもって頼まれたから、私が送り出したの」

 「ミオリネ―――どうしてそんなことしたの!?エアリアルは私の家族なんだって、一緒に育ってきた掛け替えのない存在なんだって、分かってくれてると思ったのに――どうして!」

 「そんなもの分かってるわよ!」

 「っ――」

 「あなたと初めてエアリアルにのった日、私言ったわよね。決闘の最中に、『たかがモビルスーツじゃない』って。でも、あなたと一緒に過ごすようになって、エアリアルと共にあるあなたと生きるようになって、それがどれだけ無礼な言葉だったか、今なら分かるわ」

 「だったら!」

 「でも、だからこそわかる。あなたがあの子を想うように、あの子もあなたを想っているということが、あなた以上に」

 「え――それ――って」

 「今エアリアルを動かしているのは、あなたを護るための盾になることを選んだのは―――」

 輸送艦後方・戦闘宙域

 コックピットのレーダー類は、数秒後に訪れる死を予告していた。

 圧倒的な戦力差。数の暴力。棒で叩きあい、石を投げ合い、剣を打ち合い、銃を撃ち合い――人の闘いの歴史は、鉄の巨人を操るところまで来たが、結局のところ戦いは数だ。

 それが介在しないのは決闘のようなごっこ遊びだけ。あの一対一の純粋な勝負の世界は、確かにリアルな戦争とはかけ離れているのかもしれない。

 どれだけ純粋で、美しく、誇りをもっていたとしても、そこに命のやり取りはない。

 それでも―――

 「あの時、初めて会った魔女の方がァ!何倍も恐ろしかったぜ!!」

 あの日、魔女の指先にしたがって、滑るように踊ったビットを覚えている。

 そこから閃いた嵐のごとき熱線に、成す術もなく打ちのめされたあの屈辱を覚えている。

 それを、美しいと思ってしまったことを、覚えている。

 「あの《二人》に比べれば、お前たちなどっ!」

 「グエル!無茶をしないで!前に出すぎよ」

 「こうでもしなきゃ、守れねぇだろうが」

 「でも!」

 小さく、アラートが鳴った。

 意識を向けるとこそには、レーダーに映る、居るはずのない機体の識別信号を示す文字。

 「っ!スレッタ!出てきやがったのかあの田舎者!」

 戦場を誰よりも早く駆ける一筋の流星は、味方の近くに止まると、展開したビットを器用に操り、敵機を牽制しながら『味方全機』に押し当てて、輸送艦の方に寄せ始めた。

 「なんだこいつ!まさかっ一人でやるつもりか?止めろスレッタ!!聞こえないのか?!クソっ、バーニアがいかれてやがる。機体の制御ができねぇ」

 ビットのひとつひとつはモビルスーツに比べれば小さな金属片のようなものだが、それでもそれらは、力強く部隊の全機を輸送機へと追いやった。

 「クソっ、止せスレッタ!俺はまだ戦える!俺を置いていくな!スレッタ!スレッタぁぁぁぁ!」

 モニターに見えるのは、徐々に小さくなっていくエアリアルと、それを囲むように集結し始めた敵部隊のモビルスーツだった。

 ディランザのコックピットには、背中を預けることさえ許されなかった屈辱と、学友を一人残していく悲しみの混ざった嗚咽だけが静かに木霊した。

 エアリアル・コックピット内

 そう。これでいい。

 君は前に進むんだ、スレッタ。

 これから先の世界、もうすぐ訪れる君が選んだ未来は、きっと君たちを笑顔にしてくれる。

 そこに、僕はいらない。

 ミオリネが、機会を与えてくれたんだ。お願いしたら、涙を浮かべながら、僕を送り出してくれた。

 

 ここで、僕が彼らを足止めする。

 彼らの目的は、今世界に認められようとしている『僕たち』の危険性を再度知らしめること。

 GUND-ARMが、やっぱり危険なものだという恐怖さえあれば、世界は簡単に覆る。

 だから、この人たちは攻めてきたように見せかけて、『僕にやられること』が真の目的。

きっと、あのMSにのっているパイロットたちはそのことを知らない。彼らは本気で、僕を殺しに来る。

 彼らに、『ガンダムを墜とせ』と命じながら、その実死ぬように差配しているのは、あの男だ。

 僕の生まれた日、スレッタから多くのものを奪った、あの男。

 

 

 スレッタが皆を守るために戦えば、彼らの死が僕らの未来を閉ざす。

 戦わずに逃げることを選べば、彼らはスレッタの友達を殺す。

 嫌な選択肢だよね。本当に、世界は呪われている。

 人が生きていくということは、こういう、世界に強いられるいやな選択を繰り返していく事なのかもしれない。

 

 でも、いつだって、選ぶのは自分自身だ。

 

 君は、選んだ。辛く苦しい選択でも、自分の遺志で。

 誰かかが決めた人生でも、誰かが選んだ舞台でもない。

 

 君が望む、君だけの明日を。

 

 だから、僕も選ぶよ。

 ここで、君の生きる明日を守ろう。

 復讐の剣ではなく、降りかかる火の粉を払う盾として、君の道行きを祝福しよう。

 たとえ、僕自身が居なくなるとしても、それで、君が友達やお母さん、大切な人と、笑いあえる日々を迎えられるなら。

 輸送艦・ブリッジ

 「そんな――エアリアルが?」

 「そう。今あの機体には誰も乗っていない。エアリアル自身が――あの子の意志で動いているの」

 「そんなことがあんのか?」

 ブリッジの面々が驚きを隠せずに、口々に疑問を呈す。

 「普通はあり得ないわ。でも、知っての通りあの子は特殊なの。スレッタと、兄弟のように育ってきたから」

 「なんで・・・」

 「?」

 「なんで行かせたの!」

 スレッタの悲痛な叫びが、胸に突き刺さる。

 それは、出会って以来初めて向けられる、敵意のようなものさえ僅かに感じるほどに、鋭く、刺さった。

 だからこそ、伝えなくちゃいけない。

 あの子の、想いを。

 「伝言があるわ。エアリアルから、あなたに」

 「え?」

 『逃げろ、スレッタ』

 「っ!!」

 『僕はずっと、君にそう伝えたかった。でも君は、進むことを選び続けてきた。本当に強くなったね。

 でも、逃げることでしか手に入らないものもある。逃げることが、進むことになることがある。

 僕が目覚めたあの日、君のお父さんが命がけで戦って、君とお母さんは逃げることが出来た。

 逃げられたから、僕たちは命を手に入れた。それは今日までの、掛け替えのない日常になった。

 だからスレッタ、逃げてもいいんだ。逃げた先に、きっと君が望む皆と笑いあえる明日がある。

 今の君には、素敵な友達がたくさんいる。僕以外にも、君を大切に想ってくれる人がいる。

 逃げて、逃げて、逃げ伸びた先に、つかみ取ってほしい。大切な日常を。

 掛け替えのない日々を。君のいく先に多くの祝福がありますように』

 ――だから、頼むよ、ミオリネ。僕の大切なスレッタの、大切な人。僕に、スレッタを守らせてほしい。

 エアリアルは最後にそう付け加えて、私の端末にメッセージを送ってきた。

 「そうして私は、エアリアルのロックを解除したの」

 それが、あの子の望みだったから。

 「そん、な」

 俯くスレッタの肩を支え、抱きとめる。

 「ごめんね。ごめんね、スレッタ」

 堪えていた涙が、溢れてしまう。私に泣く資格なんかないのに、溢れるものを止められずに、声を絞り出す。

 「あなたの大事な家族を、犠牲にするような戦術しか思いつかなくて、ごめんなさい」

 消え入る様な声で、償いきれない罪を告白する。

 私はなんて無力なんだろう。エアリアルに全てを押し付けて、のうのうと息をしているだけの、無力な小娘。使えもしないMSに勝手に乗り込んで無様を晒したあの日から、何も変わっていない。

 胸が詰まる。言葉が出ない。あの子と、代わってあげられたら良かったのに。

 「―だよ」

 「え?」

 不意に何かを口にしたスレッタの顔を見る。

 「まだだよ、ミオリネ。まだ、間に合う」

 そこにあったのは、泣きじゃくる私とは正反対で、出会ったころの自信なさげな彼女とも違う、力強い、決意に溢れた目だった。

 

 輸送艦後方・戦闘宙域・ベネリット部隊旗艦・ブリッジ

 「なぜたった一機のモビルスーツを落とすのに、こんなにも時間がかかるのだ!」

 眼前に繰り広げられる忌々しい戦場を見据え、怒号を飛ばす。

 「機動性が違いすぎます。近づきすぎれば、味方を盾にされますし、距離を開ければ攻撃はビットに防がれてしまいます。やはりあの性能差は」

 「私が望むのは結果のみだ。さっさと墜とせ」

 おかしい。こちらのモビルスーツは損耗さえしているものの、撃墜されていない。

 味方部隊には伏せているが、この戦場での真の目的は「ガンダムに撃墜されること」であって、こんな茶番を演じる為ではない。

 もっと攻撃を激化させて、ガンダムに殺させなければ。それとも、まさかあの機体に乗っている者は、こちらの意図を読み取った上で前線に出てきたのか。

 どちらにせよ、こちらの部隊は精鋭をそろえた。手加減して生き延びられる相手ではない。

 「レーダーに感!敵部隊、増援の模様!」

 「数は?」

 「一機です!」

 たった一機で援護?笑わせる。だがちょうどいいところに来た。それを盾に、ガンダムには穢れて貰うとしよう。この呪いを、未来永劫、確固たるものにするために。

 「増援を落とせ。集中攻撃だ」

 圧倒的な性能差で自信を守れても、果たして味方を守りながら同じことが出来るかな?

 「ガンダム、急速旋回!増援機体を防衛しているようです!」

 さぞそいつが大事なようだな。

 「予備部隊も出せ」

 「しかしデリング総帥、増援一機に対してそれは過剰では」

 「構わん。やれ」

 ガンダムが出てきた段階で、映像を世界に発信させている。あとは忌々しい魔女の演説を台無しにする決定的なシーン。ガンダムが人を殺しているところを映し出すだけだ。

 容赦はしない。油断もしない。今日ここで、あの呪われたモビルスーツを、ガンダムを、再び否定するのだ。

 モビルスーツ評議会・壇上・エルノラ演説中

 「――いつの時代も、技術は戦争と医療に伴って進歩してきました。人を殺めるため、人を救うため。相反する道は、人類が存続する以上否定できない二律背反の進行なのでしょう。

 競争は進化に不可欠であり、生存は進化の前提です。しかし、技術は、決して戦争の奴隷ではありません。戦争と医療という優先順位を経過した後、多くの新たな知識は、人々の生活に浸透し、生きるということを豊かにしてきました。

 そう、いつだって、そこにある技術をどう扱うか、どう向き合うかは、今を生きる私たち自身の手に委ねられているのです。だからこそ――」

 演説の途中に、空気が変わったことに気づく。どよめきの原因は、全モニターに流れているリアルタイム映像だった。

 「くっ――」

 思わず画面を睨む。そこには、多数のモビルスーツ部隊に囲まれたエアリアルの姿があった。こんな事をするのは――

 「デリングっ――!」

 全世界が、戦場に現れたエアリアルを、GUND-ARMを見ている。

 これでは、私の言葉は届かない。

 それでも、演説は続けなければ。そう思った矢先、画面端で、エアリアルとは違うモビルスーツが撃墜されるのが見えた。コックピットから投げ出されたパイロットのヘルメットには、見覚えのある可愛らしいシールが貼られていた。

 「―――エリー?」

 輸送艦後方・戦闘宙域

 退けたはずの味方のモビルスーツが一機、戦場に戻ってきたことを感知する。

 誰だろう。でも、誰であってもここは危険だ。スレッタの為にも、これ以上皆を失いたくはない。

 

 豪雨のように降りしきる敵部隊の火線を防ぎながら、味方の姿をモニターに捉える。

 スラスターが破損しているようで、飛んできているというよりは、ゆっくりと浮かんでいるようだった。

 そう、まるで幼い子供が、馴れない宇宙を漂うようで―――その瞬間、その姿が、あの頃のスレッタと重なった。

 お母さんが居なくて、寂しくて、嫌な現実から逃げるように僕のコックピットにやってきた、あの頃のスレッタに。

 機体を急速に回頭させ、全速力で跳んだ。

 間に合え、間に合え、間に合え。

 後ろからとんでくるビームライフルの火線が、僕を追い越していく。そのうちの一つが、味方の機体を掠めていく。

 あともう少し、というところで、コクピットのハッチが開く。中から、パイロットが身を乗り出した瞬間、一筋の閃光が機関部を直撃した。

 数舜の間。パイロットは機体を蹴って、真空のソラに飛び出し、一瞬の後に発生した機体の爆風に揉まれて吹き飛んだ。慌てて、僕もコックピットを開く。

 ガンビットを自分を中心に球体になる様に配置して、周囲の攻撃を防ぎながら、なんとか捕まえたパイロットをコックピットに迎え入れる。

 なんて無茶をするんだ。なんてバカなんだ。もし僕が喋れたのなら、大声で「バカ!」って叫んだとおも――

 「バカっ!!!」

 聞きなれた声が、僕と同じことを考えていたようで、開口一番そう叫んだ。

 「エアリアルのバカ!ほんとにバカ!!なんでこんなことしたの!!」

 

 今まで、こんなに怒られたことはなかったね。でも、感情任せの叱責は、想像よりもずっと痛くて、温かかった。

 

 「――ごめん。なんでこんなことしたのかは、ミオリネから聞いてる。あなたが、どんな想いでここに来たのか、痛いほど分かってる」

 

 そうだね。僕らは兄弟みたいに育ってきた。お互いのことで分からないことなんて、何もな――

 「でも、エアリアルは分かってない」

 

 ?

 「私が生きたい明日には、笑いあいたい『皆』の中には、エアリアル、あなたが居なきゃダメだってこと」

 !

 「確かに、水星に居た頃は考えられないほど、私には新しい友達ができた。皆との日々は、とても楽しかった。でも、私の家族は、お母さんとエアリアルしかいないの」

 ―――あぁ、そうか。

 

 「だから、私は逃げない」

 

 僕は、間違えていたんだね。

 

 「私の進む道は、エアリアルと一緒だから」

 

 あの頃の、泣き虫な君はもういないんだ。君はもう、ただの呪われたしがらみに囚われた、かわいそうな子じゃない。

 僕が君を祝福するように、君も僕を、祝福してくれるんだね。

 なら―――

 『スレッタ、きこえる?』

 「ミオリネ!」

 『全世界が、あなたたち二人の一挙手一投足を見てる。あなたの選んだことが、皆のこれからを左右する』

 「うん、分かってる」

 『それでも、やるのね?誰も死なせず、誰も傷つけず、生き残れる?』

 「大丈夫。私とエアリアルは、負けません!」

 僕も、君と進もう。

 君と二人で、選び取ろう。

 人が積み重ねた呪縛を断ち切った先にある、祝福を君と分かち合うために。

 

刹羅木劃人の星見棚

一つの本は一つの世界、一つの星。

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