夏目玲子の憐憫~21gの行方~ 後日談/解答編
―玲子スマホ・着信
「もしもし?」
「騙したな」
「開口一番物騒だな、灼」
「とぼけるな。お前はあの時、こうなると分かっていたんだろう」
「そう苛立つなよ。犯人は捕まえられたろう?」
「――あぁ。だが、被害者のスマホにマッチングアプリを使った記録はなかった。自宅のPCにもだ」
「なら、私が推理を外したというこ」
「お前が間違えるわけないだろう!夏目玲子、お前が解体できない謎はない」
「――ふふん。まぁね」
「ならば、お前が面白半分に俺を騙したことになる」
「ご明察。まぁあれは、早とちりした灼も悪い。思わず悪戯したくなるというものさ」
「はぁ――本当にお前という奴は」
「それで?私に騙された刑事殿は、それでも無事に犯人を逮捕出来たわけだが?私の与えたヒントに、不備があったのかな?」
「っ―――機材の特定を行った結果、いくつかの病院が確認できた。その中に、被害者の一人、病院の機材管理を担当していた男性の勤務先の病院があった。俺たちは怨恨の線で捜査していたため、被害者に恨みを持っていそうな人物は調査していたが、今回は改めて、その男性の周辺を徹底的に調査した。そこで浮上してきたのが、死亡前一ヶ月ほどから彼と親密な関係になっていた一人の女性研修医だ。周囲にも秘匿していたようだが、事情を知る数少ない同僚には、男性には不釣り合いな印象だったが、トラブルもない静かで清い交際に見えていたようだ。交際期間の短さから、後を引いていない彼女の様子も特に不審に思われなかったと」
「そう。彼は利用されていた。加害者である彼女が病院の機材を持ち出せたのは、彼が協力していたからだ。彼は被害者であり、共犯者だったんだよ。彼女が何の目的でそれらの機材を持ち出していたのかを知るころには、彼は薬で意識を失っていただろうがね。さらに言えば、彼だけは、恐らく彼女に"体重を調整された"被害者だろうね。口封じに消すついでに実験台にしようとした。身長が同じなのをいいことに、交際相手という立場を利用し食事をコントロールして、目的の体重に調整――”実験”が十分となったタイミングで最後の被験者になった」
「やはり、全て分かっていたんだな」
「ふふん。彼以外の被害者は、全て健康診断のデータを元に探し当てている。職権乱用だな。労働安全衛生法により、事業者は労働者に対して健康診断を受けさせる義務がある。彼女はそのタイミングで目星をつけた被害者に接触、実験の舞台を整えた。マッチングアプリの身長体重なんて、本人が良いように見られたくて鯖を読むのは火を見るより明らかだ。――誰かさんは引っ掛かったがね」
「あの時、玲子が『無職は居なかった』と俺に確認したのはそういうことか――」
「まったく、灼は刑事としては優秀だが、人が良すぎるな。私を信じすぎる」
「だが、あの場では有栖川君だって」
「倫太郎君なら、君よりも早く真相に辿り着いたよ」
「なっ!?」
「ふふん。まあ、宿題が解けた(DMが来た)のはついさっきだがね。優秀なんだ。私のワトソン君は」
「――ふっ、そうか」
「で?」
「ん?」
「私が聞きたかったのはそこじゃない。二度も言わせないでくれ。『私の与えたヒントに、不備があったのかな?』」
「・・・」
「『男性には不釣り合いな印象だった』んだろう?病院と男性が紐づいた瞬間から、彼女に行き当たるまでにその情報は有用だったはずだが?」
「―――後日、買っていく」
「ふふん」
「有栖川君も呼んでおけよ。せっかくだから、遅めの誕生日祝いでもやろう」
「あぁ、楽しみにしているよ灼。いや、今回も楽しかった、かな」
「あまり苛つかせるなよ。買っていくボトルに一服盛りたくなる」
「おや、灼。君も毒を混ぜて私の体重を計るのかい?眠れる乙女に恥辱の限りを尽くそうだなんて、これは奥さんに報告ものだな」
「っ――いっそ永眠できるように水銀でも垂らそうか、眠り姫」
「ふふん。それで永遠が手に入るなら、是非頼むよ」
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