遠雷にさよならを 【1:1 25分 悲恋ロマンス台本】

 前読みを推奨します。キャラ詳細等あとがきあり

 以下台本本文

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小町:「夢路には 足も休めず通へども うつつにひと目 見しごとはあらず」

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翔琉:お待たせ。待った?

小町:ううん。いま来たとこ。なんちゃって。

翔琉:今日も暑いな。まだ7月なのに蝉も五月蠅いし、もう夏って感じだな

小町:そうだね~。蝉触るのは無理だけど、鳴き声はそんな嫌いじゃないよ

翔琉:あぁ、小町は賑やかなの好きだったっけ

小町:うん。だから夏はすきなの。昼も夜も、音がたくさんで。

翔琉:ま、こんな田舎じゃ静かすぎて寂しいもんな

小町:ほんとだよ。はぁーあ、隣町のショッピングモールとかに買い出し行きたいな。

翔琉:デートで電車乗って隣町とか行ってたの、懐かしいな。あっちは賑やかでさ。

小町:一個町が隣なだけでなーんであんなに違うんだろね。

翔琉:俺も、学校なんとか卒業した後は町を出ようかとも思ったんだけどさ、中々踏ん切りつかなくて。

小町:地元に残るってのもいいんじゃない?

翔琉:まあ、転職とかも今更面倒だし。

小町:まーた翔琉の悪いとこ、でてる。めんどくさがりは治んないなぁ。

翔琉:人の性格とか癖って、やっぱどうしようもないんだよな。

翔琉:小町も、高校の頃クラスメイトとかに、あんだけ完璧超人みたいな風に言われてたけど、雷が怖いのだけはどうしようもなかったもんな。

小町:あっ、あれは

翔琉:高1の時の夏だったね。台風がきて、大きい雷が落ちた時、授業中なのに小町が絶叫してさ。ふふっ。

小町:仕方ないじゃん!怖かったんだもん。

翔琉:あんまりにも声が大きかったからみんなシーンとしちゃって。

翔琉:先生が「雷より君の方が怖い」って言って、みんな爆笑してたよな。

小町:全然笑い事じゃないのに!私だけずっとびくびくしてて、あの日の授業ぜんっぜん頭入ってこなかったんだよ!

翔琉:思えばあれが初めてだったな。委員長気質でしっかりしてて何かと世話を焼いてくれる小町が、身近に感じたっていうか。

翔琉:あぁ、この人も苦手なものがあるんだなって。それまでは、なんか別次元の人って感じだったから。

小町:翔琉、パッとしなかったからね。前髪で目も隠れてたし。

翔琉:でも、おかげで俺からも話せるようになって、段々接することが増えてって、気づいたら好きになってた。

小町:ちょ、急にさらっと言わないでよ。なんか恥ずかしい。

翔琉:で、小町にいろいろ指導?矯正?されたおかげで、俺は段々真人間になっていって、なんでここまでしてくれるんだろうって考えて、あぁ、この人俺のことが好きなんだなって分かるまで、1年もかかってさ。

小町:ほんと、待たされた。こっちは4月に会った時から好きだったっていうのに。

小町:だけど、待ったかいはあった。

翔琉:学年でも人気の、皆に愛されるタイプの子にちょっと優しくされたくらいで、もしかして俺のこと好きなのかななんて思うのは、それこそダメな思春期男子の思い上がりかとも思ったけど

翔琉:でも、もう関係なかったんだ。俺が小町を好きになってたから。だから、2年に上がる前に、告白した。

小町:お互い、もうなんとなくオッケーするって分かってたのに、手汗すっごい出るくらい緊張したね。

翔琉:今でもあの時のこと思い出すのは、心臓に悪いよ。

小町:でも、嬉しかった。

翔琉:「俺と付き合ってください」って。それだけのことを口にするのに、凄い時間がかかっちゃって。

小町:私も、「はい」って答えるだけなのに、口が上手く開かなかったな。

翔琉:小町の返事が返ってくるまでの間も、本当に時間が引き延ばされたみたいだった。

翔琉:自分の心臓がめちゃくちゃうるさいのに、桜の花びらが落ちる音が聞こえた気がしたんだ。

翔琉:小町の瞳から、目が離せなくて、まつげが震えてるのが分かって、あぁ小町も緊張してるんだなって思った。

小町:翔琉なんて、耳まで真っ赤で、無駄に背筋がぴんとしてて、まるわかりだったよ。

翔琉:返事を聞いて、安心して。二人とも詰まってた息を吐き出した。

小町:長く感じたあの瞬間も、きっと呼吸を止めてられるくらい短かったんだよね。

翔琉:そして、二人して笑い出した。

小町:だって、なんだか急に面白くなっちゃったから。

翔琉:込み上げてくるものを我慢できなくて、しばらく二人で笑ってたよな。

翔琉:その時思ったんだ。この先の人生で、こんな風にお互い笑いあえる時がたくさんあるといいな。

翔琉:ずっと一緒に、居られたらいいなって。

小町:私も、そう思ってた。

翔琉:始めてデート行ったのは、それこそ隣町のショッピングモールだったね。

翔琉:せっかくの初デートなのに、いつもと変わらない時間、変わらない場所で待ち合わせの約束だった。

小町:どこでも私の行きたいところでいいっていうから。

翔琉:付き合う前にも何度か行ってたのに、なんだか妙に緊張してた。

小町:翔琉が何回か手を握ろうとしてタイミング伺ったの、バレバレだったよ。

翔琉:結局俺はいろいろと空回って、全然カッコつかなかった。

小町:二人とも、なんだかぎこちなかったね。

翔琉:でも、段々そんな雰囲気にも慣れていって、分かったんだ。

翔琉:変にカッコつけなくても、今までのありのままの俺でいいんだって。

小町:そうだよ。そんな翔琉だから好きになった。

翔琉:もともとダメダメの根暗で、格好も何も無かったのにな。

小町:そ。ダメダメだったけど、素朴で、ひたむきで――

翔琉:でも、小町のおかげで、良い方に変われた。

翔琉:たぶん、小町と出会ってなかったら、俺は未だに人と関わることを怖がってた。

翔琉:こんな風に普通に就職して、社会人やってって、出来てなかったと思う。

小町:そんなことないよ。きっと私が居なくても―

翔琉:それくらい、小町との日々が眩しいんだ。

翔琉:俺の歩いてる道は、ずっと小町が照らしてくれてる。

小町:ちょっと、言いすぎじゃない?嬉しいけど。

翔琉:――――でも、そんな道のりも、そんなに長く続かないかもしれない。

小町:――え?

翔琉:少し前に病院行ってきたんだけど、病気だって診断されたんだ。割と特殊な。

小町:それって、なお―

翔琉:治らないんだって。全身の筋肉がだんだんうまく使えなくなっていくらしい。余命は、聞かなかった。

小町:嘘、そんな――

翔琉:人によって経過が違うらしいんだけど、早ければ来年の今頃には、入院するかもしれないって。

翔琉:だから、もしかしたら、もうここには来られないかもしれない。

小町:っ――来なくてもいいよ。もう十分だよ。諦めないでよ。そんなあっさり―

翔琉:医者にはさ、生きる気力が、生きようとする意志が大事ですって言われたんだけどさ――

翔琉:俺、思っちゃったんだ。小町が待ってるなら、別にいいかなって。

小町:良い訳ないよ!私が待ってるのは――いや、待ってなんかない。私のこと忘れて、もっと違う人生を――

翔琉:ま、こういうときっと小町は怒るだろうけど。

小町:当たり前でしょ!

翔琉:ほんと、小町には叱られてばっかりだったなぁ。

翔琉:もっとしゃきっとしてとか、声を張れとか、まぁ、全部俺の為だったんだなって今ならわかるけど。

小町:違う、違うの。私が先にあなたを好きになったの。全部自分のための―

翔琉:ほんとにさ、凄い眩しかった。

翔琉:学校とか日常とか、そんなに楽しいと思えなかったし、むしろ嫌いなくらいだったけど

翔琉:小町と一緒なら、ずっと一緒なら、きっと素敵な毎日が送れるって、そう思ってたんだ。

小町:もういいよ翔琉、こんなことしてる場合じゃないよ。残りの人生が短いなら尚更――

翔琉:卒業式のあとなんかさ、結構、喪失感?みたいなのがあって、自分でもびっくりしたんだ。

翔琉:朝起きて、ハンガーにかかってる制服見て、あぁ、もうこれ着ることないんだなって思ったら、

翔琉:急に小町を、置いてきちゃったような気がして。

小町:違うよ。私が翔琉を置いていっちゃったんだよ。

翔琉:小町が居てくれた1年ちょっとと、小町が居なかった残りの学校生活を振り返ってさ。

翔琉:もし一緒に居られたならどんなに楽しかったろうって、そればっかり考えてた。

小町:私も、翔琉のこと思わなかった日なんて、1日もないよ。

翔琉:でも、今の俺を創ったのは小町だから。俺が何かを思う時に、いつだって小町がそこにいるような気がして。

小町:いるよ。ずっと一緒。

翔琉:でも、どんなにそう思ったって、小町はもう思い出の中にしかいない。

翔琉:やさしい陽だまりみたいな思い出をなぞっていっても、最期には、道路に駆け出してく背中と、熱を失っていく瞳に行き当たる。

小町:っ―――

翔琉:俺たちのこと良く知ってるクラスメイトは、慰めの言葉をかけるか、そっとしておいてくれた。

翔琉:でも、新聞やテレビは、大衆に消費される物語としてしか見てなかった。

翔琉:そりゃあ、道路に転がり出たベビーカーを護るために代わりに轢かれて死んだ高校生なんて、ネタにしないわけないよな。

小町:だって、見えちゃったから。

翔琉:皆に頼られる立派な人だし、そうあろうと頑張ってたのは分かる。

翔琉:正真正銘そうだったんだってのは、今じゃみんなよくわかってくれてる。

翔琉:漫画のヒーローみたいな真似、ほんとにやっちゃうんだもんな

翔琉:俺も、きっと小町の親父さんとお母さんも、みんなも、誇りに思ってる。

小町:でも、翔琉に重い荷物、背負わせちゃった。

翔琉:だけど俺はそれどころじゃなくて、腕の中で冷たくなっていく小町の顔が頭から離れなかった。

小町:ごめんね。伝えられなくて。

翔琉:なぁ、あの時なんて言おうとしてた?

小町:もう、口がうまく回らなかったの。

翔琉:意識がなくなるまでのあの間に、俺に何か言い遺そうとしてたのに。

小町:特別なことじゃないよ。いつも伝えたかったけど、普段は口にするのが難しいだけ。

翔琉:俺は、それさえ、聞いてあげられなかった。

小町:ありがとう。ごめんね。大好き。それだけ、だったんだけどなぁ。

翔琉:貰ってばかりだったのに、最期の最期に、受け取り損ねた。

翔琉:せっかく小町に良くしてもらったのに、パッとしない根っこの部分は変われなかったんだ。

小町:関係ないよ。あれは事故。悪い人なんて、どこにもいなくて、赤ちゃんも無事だったんだから。

翔琉:貰ったものが多すぎて、なんにも返せなくて。

翔琉:これからの時間の中で返していこうと思ってたのに、そんな日々は来なかった。

小町:ばか。たくさん貰ってたよ。

翔琉:最初のうちはやっぱり、上手く立ち直れなかった。

小町:初めてにここに来たときは、泣いてばっかりだったね。

翔琉:1年経っても、2年経っても顔を上げられなかった。辛さから逃げたくて、何も考えないようにしてた。

小町:2年目は、何も言わずに俯いてるだけだったけど、それでも、ここには来てくれた。

翔琉:3年経って、小町との思い出が全然色褪せてないことを実感して、やっぱり下ばっかり見てた。

小町:あの時が一番泣いてたね。

翔琉:4年目になって、やっと小町に謝れた。

小町:謝ることなんてなかったのに。でも、やっと話してくれて、安心した。

翔琉:5年経って、はじめて今みたいに声を掛けられるようになった。

小町:嬉しかったよ。あの頃みたいで。

翔琉:そうして、今日で13年。

小町:ほんと、立派な大人になったね、翔琉。

翔琉:今でも夢に見るんだ。

翔琉:並んで歩いて、お互いに笑顔で。でも、何かを見つけた小町が急に駆け出して、手を伸ばすけど届かなくて。

翔琉:そして、腕の中で冷たくなっていくのを、泣きじゃくりながら見送る。

翔琉:目が覚めれば、楽しい思い出だってたくさん思い出せるのに、夢に見るのはそこばかりでさ。

翔琉:それでも、生きていこうって思えたんだ。

翔琉:俯いてたら、また叱られるって思ったから。

小町:知ってるよ。見てたから。もがきながら、ちゃんと前を向いて生きてたの。

翔琉:でも、それももう、終わっちゃうんだなって。

翔琉:だから、ごめんな。小町の分まで生きたかったけど、俺の人生、もうすぐ行き止まりみたい。

小町:だめ、だよ。そんなのないよ!生きてよぉ!!生きて、もっと、もっと――

翔琉:中々厳しいよな、運命とか、神様ってやつは。

小町:なんで、こんな。私、私は、翔琉に幸せに生きててほしいだけなのに。

小町:哀しい思いさせて、ずっと引きずらせたままで、そんなの嫌なのに、せっかく、立ち直れたのにっ。

翔琉:そこ、隣空いてるだろ?

翔琉:出来れば俺の墓も隣に立ててほしいけど、小町の親父さん、許してくれないだろうな。

翔琉:昨日来たんだろ?親父さんたち、元気だったか?

小町:っ――

翔琉:俺は、相変わらず嫌われてるみたいだからさ。

小町:ほんとに、ごめんね。翔琉は何も悪くないのに。

翔琉:俺が悪いんだってのは分かってるんだけど、ね

小町:お父さんが弱かったから、誰かのせいにしないと、心が壊れちゃいそうだったから。

翔琉:でも、それだけ小町が親父さんから愛されてるってことだよな。今もずっと。

小町:期待ばかりされてた。応えなきゃって虚勢を張ってた。でも、翔琉はありのままの私を見つけてくれた。

小町:そんな翔琉だから好きになったのに。死んだ後になって、お父さんが翔琉のことまで苦しめるなんて。

小町:こんなのもう、呪いだよ。

翔琉:もし、俺たちが出会わなかったら、きっとこんな結末は迎えなかった。

翔琉:もし、俺と出会わなければ、小町はもっと幸せで、今も生きてたかもしれない。

小町:そんなことっ―

翔琉:俺だって何度もそう考えたんだから、小町のことが大事で大切でたまらなかった両親からしたら、そう思わずにはいられないのは当然だよ。

翔琉:でも、でもな、俺は結局そんな風に思えなくなった。いいや、思いたくなくなった。

翔琉:とても、ほんとうにとても、辛い別れだったけど、もし小町が俺の人生のどこにも居なかったらって思ったら、怖くてたまらなくなった。

翔琉:もし時間をさかのぼれても、俺はまた、きっと小町を好きになる。

翔琉:だから、生きていこうって、今の自分を精一杯頑張らなきゃって思ったんだ。思えたんだ。思えたんだけど、な。

小町:………

翔琉:――――さて、結構長くなっちゃったな

小町:あ――

翔琉:最期になるかもしれないから、話しておきたかったんだ。

翔琉:死に別れたことも、その後苦しかったことも確かだけど、

翔琉:小町と過ごしたあの時間が、小町がくれた思い出が、今日まで俺を生かしてくれた。

小町:同じだよ。私の人生で、翔琉との日々は、最高の思い出。

小町:毎年翔琉が来てくれるまでの364日も、いろんなこと思い出してたら、あっという間だった

翔琉:――――俺は、小町の思い出にはなりたくなかった。

小町:――え?

翔琉:小町はもう、思い出の中にしかいないけど、俺は小町の思い出にはなりたくない。

翔琉:来年も再来年も、ここに来て、思い出話と、今の自分の話をして、小町の新しい思い出を増やし続けてあげたかった。

小町:………

翔琉:たった1年とちょっとだったけど、俺は小町と会って生まれ変わったみたいだった。

翔琉:小町のおかげで、今の俺があるんだ。

小町:翔琉のおかげで、あの頃私は私で居られたんだよ。

翔琉:だから、ありがとう。さようなら。大好きだよ。

小町:っ―――

翔琉:あれ、おかしいな。もう、とっくに枯れたと思ってたのに。

翔琉:まだ、出たんだな、涙。

小町:かけ、る―――

翔琉:なあ小町。俺、死んだら雷になるよ。

小町:え?

翔琉:隣に墓をたてるのは難しいだろうから、俺は死んだら、雷になる。

翔琉:小町、あんだけ怖がってたから、きっと気づくだろ?

翔琉:どんなに遠くても聞こえるくらい、大きな音を鳴らすよ。

翔琉:どんなに遠くても見えるくらい、眩しく光るよ。

翔琉:だから、もう墓参りには来られないけど、これが最期じゃない。きっとまた、会いに来る。

翔琉:時間が経って、いろんなものが変わったけど、俺の中にある思い出と、小町への気持ちだけは、変わらないから。

小町:うん。待ってる。何年だって、待てるから。翔琉がくれた思い出があれば、いつまででも。

小町:だから、長生きしてね。最期まで、幸せでいてね。

翔琉:じゃあ、また。

小町:うん。またね。

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 間。1年経過の場面転換。結構しっかりとって頂いた方が良いと思います。

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小町:はぁ。今年は天気悪いけど、蝉が五月蠅いくらい賑やかなのは変わんないな。

小町:でも、蝉は話し相手にはならないからな。

小町:ま、翔琉にも、声が届いてたわけじゃないけど。

小町:ほんとに、来ないんだ。

小町:ほんとに、もう、会えないんだ。

小町:思い出に、なっちゃうなぁ

小町:ねぇ、翔琉。きっと翔琉のことだから、最期まで、前を向いて頑張ったんだよね。

小町:辛いこと、たくさんあったけど、心だって折れそうなくらい苦しくても、でも、時間がかかってもいつか立ち上がるって、私、知ってるから。

小町:私の声はもう届かないけど、翔琉の思い出の中に居る私は、ちゃんと最後まで、側にいたよね?

 遠くに見える曇り空で、雷が閃く。

小町:あっ、雷。

 遠雷に手を振る小町

小町:今までありがとうっ!さようならぁ!大好きだったよぉぉ!!

小町:ほんとうに、大好き。

小町:私、待ってるよ。いつまでも、いつまで、も――っ――翔琉っ

小町:会いたいよっ――――――

翔琉:「お待たせ」

小町:「っ――!」

翔琉:「待った?」

小町:「――――ううん、今来たとこ」

 終幕


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 台本は終幕まで。以降後書きになります。

 演者さんの為の資料になりますので、上演時観客に提示する必要はありません(しても構いません)。

 翔琉 享年31歳

 言葉をかける。追いかける。かけ離れる。

 小町 享年17歳

 みんなから愛され尊敬される女子高生。高学歴でプライドの高い親からの期待は重かったが、決して親のことを嫌ってはいなかった。その期待に応えようと必死で、周りの知人らからも信頼されていた。

 ただし、翔琉と出会っていなければきっとどこかでパンクしてしまっていたような危うさも持つ。

 小町は皆を救うヒーローで、その小町を救う小町だけのヒーローが翔琉だったという構図です。

 織姫と彦星モチーフ。14歳差はベガとアルタイルが14.4光年離れているから。

 翔琉は雷になって、光の速さで、待ってる小町に追いついた、というオチ。

 馴れ初め

 同い年、高校に入学をきっかけに出会う。

 清廉潔癖、品行方正、でもお嬢様というよりは活発快活な少女の小町。

 男女ともに人気が高く(一部女子からは妬まれていたが)、もちろん言い寄る男子は大勢いた。

 でも、その表層は親からの期待に答えようと懸命に貼り続けていた虚勢も含まれていた。

 だが、一見パッとしない翔琉と偶然出会い、控えめだが他人に思いやりがあり、素朴で、ありのままの自分を見つけてくれたその人柄に恋に落ちた。

 小町はまず、翔琉を磨き上げるところから始めた。

 パッとしないだけで翔琉は磨けば光るタイプの男だったので、小町はアプローチを兼ねて何かと翔琉の世話を焼き、意識改革を行っていった。

 次第に翔琉は自身のなさからくる弱々しさがなくなり、周囲からも一目置かれる男子に、一年かけて変わっていった。

 そして高校1年の終わり、小町は翔琉からの告白を引き出すことに成功する。

 翔琉も、惹かれているのとは別に、そこまで鈍感ではなかったので男を見せた。

 そんな出会ったころと同じ桜吹雪の下で、予定調和のはずなのに胸が高鳴って仕方がない春を経て、二人は恋人になる。

 夏、二人並んでの家路。

 道路脇の歩道を、車道側を翔琉が、外側を小町が歩いていた。

 片側1車線、小町の視界には、こちらを向いて楽しい雑談に笑みをこぼす翔琉と、その向こう側にベビーカーを伴った母親が見えた。

 母親が目を離したベビーカーが道路に転がり出る。

 電話に夢中で気づかない母親。飛び出す小町。

 駆け出し、ベビーカーを優しく突いて歩道まで押し出したと同時に轢かれて数メートル宙を舞う。

 駆け寄る翔琉。小町は頭から血を流し、意識はあるが言葉を発することが出来ない。

 救急車が来るまでの間にゆっくりと意識を失っていく小町。

 何か言葉を残す時間はあったのに、何も聞いてあげられなかった。

 自分が道路側に立っていたのに、小町の背中を見送る事しかできなかった。

 色彩に満ち溢れた日々から一転、失意に沈む翔琉。

 後悔が絶えずのしかかる13年。

 小町の父親には、何故娘を守ってくれなかったのかと責め立てられ、墓参りも年に一度、7月7日にしか許されていない。

 これは7月6日が小町の命日であり、その日に必ず両親が墓参りに行くので、その翌日を指定したもの。

 最初の1年目の時に翔琉も命日当日に足を運び両親と出くわしてしまい、父親に胸ぐらをつかまれたり罵倒されたりしたものの、

 翔琉があまりにも悲壮な状態だったため、父親側がその時に言い渡した。

 前日に両親の墓参りが済んでいるため、花は既に供えられ、墓は綺麗に掃除され、翔琉がすべきことは何もない。

 なるべく翔琉の事を思い出したくない両親が彼の痕跡を見たくないため、次に自分たちが墓に参るまで364日の間を開けたいという忌避の意を表している。

 最初の墓参りは、何も言葉を発せずに、蹲って呻くばかりだった。

 次の年も、静かに拝むことしかできなかった。

 3年目、想い出が色褪せていないことを実感し、嗚咽を漏らした。

 4年目、やっと言葉をかけることが出来た。しっかり者の小町が必ず先に待っていたデートの待ち合わせ、二人の時間が始まる合言葉を。

 それから10年。欠かさず言葉を掛けにやってきては、思い出を更新していく翔琉。

 墓に縛られる様に幽霊と化した小町。

 小町は待ち続けた。毎年、命日である7月6日にやってくる両親と、翌日にやってくる翔琉を。

 最初のうちは目の前で咽び泣く、自分の大切な人たちにつられる様に泣いていた。

 翔琉が5回目にやってきた5年目の夏、近況報告を淡々としてくれる様になった彼に安堵した。

 7年目の夏、もう自分のことを忘れて、新しい人生を歩んでくれと泣き叫んだが、もちろん翔琉に言葉は届かない。

 9年目の夏、自分のことを忘れない彼の頑固なところに音を上げて、彼の言葉に会話を投げ返す戯れに興じ始める。

 毎年、いつもの言葉から始まる翔琉との、会話まがいの偽物の自己満足。偽りのふれあい。

 「お待たせ、まった?」に「ううん、今来たところ」と、生前と変わらず嘘をつく事だけが、彼女の心のよりどころだった。

 14年目、翔琉はまだ筋萎縮性側索硬化症(ALS)の重症化前だったので日常生活を送れていたが、

 墓参りに行く道すがら、奇しくも小町と同じ死に方をしてしまう。

 信号待ちの途中、反対側で待っていた子供たちがふざけてじゃれあっていると勢い余って車道に飛び出してしまう。

 天気は曇天。視界も良好とは言い難い状況で、トラックが子供たちに迫る。

 思い出の中でフラッシュバックする小町の背中を追いかけるように駆ける翔琉。

 子供たちの代わりに轢かれ、路上で血の海に沈みながら、小雨が降り始めた曇天に手を伸ばす。

 「ちょうどいいや。約束、守れそうだ」

 強まる雨脚、淀みを増す鉛色の空。そこに眩く駆ける、一筋の稲光が奔った。

 小町の父親はそれを聞き、ひどく後悔する。

 自分の情けなさを嘆き、翔琉に非などなかったこと、愛した娘の選んだ男を信じてあげられ無かったことを悔む。

 そして翔琉の墓を小町の墓の隣に立てて、毎年7月の6日に加え、7日も墓に参るようになった。

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