Porter【独演台本】

 一人読み台本 5分

 誰かと誰かの想いを繋ぐ、誰でもない誰か


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以下本編

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    重い

 なんて重いのだろう

 

 肩に食い込むショルダーストラップ、上がらない脚、上がる息。

 果てのない荒野を、道標もなく歩み続けるような閉塞感。

 そして、連ね刻む足跡の一つ一つを深くする、背中の荷物。

 

 荷物の中身は知らない。

 食べ物なのか、置物なのか、本なのか、手紙なのか。

 自分が今何を背負っているのか知らないまま、それでもこの苦難の道を歩み続けている。

 わかるのは、その全てが、誰かから誰かに宛てられたものだということ。

 そこには必ず、想いがある。

 誰かから誰かへ。送られる物には、贈られる言葉には、想いがこもる。

 伝えたい何かが形になって、それを相手に渡す時、それはおくりものになる。

 祝福、感謝、友情、そして、愛情。

 おくりものに宿った想いは、宛先の人に届いて、初めて伝わる。

 だから、それを預かっている間は、その想いそのものの存在さえ、預かっているのだ。

 あぁ、重い。なんて重いのだろう。これは、そう、重荷だ。

 こんなにもたくさんの人の、誰かへと伝えたい想いの重さ。

 背負っているだけで、自然と背筋が伸びる。

 途中で投げ出すことなんて、膝を折ることなんて、許されない。

 

 例えば、故郷の両親への感謝の言葉

 例えば、出産を乗り越えた友人への祝福の品

 例えば、一生を添い遂げたい誰かへの愛の結晶

 どんな荷物も、どんな想いも、何一つ零さないように、何一つ欠けないように、届けたい。

 

 それでも、届けられないものがある。

 たどり着いた先に、届けたい誰かが居ない時、帰り路を行く足は、とてつもなく重くなる。

 届けた分だけ荷物は減ったはずなのに、届けられなかった想いは、心さえ沈める。

 本当は届けたかった想いが、言葉が、そこにあったのではないかと思うと、胸が苦しくなる。

 人は待ってくれていても、時間は待ってくれはしない。

 誰かからの想いを受け取ることなく、旅立っていく人もいる。

 待っていたはずの想いを受け取るよりも早く、決断を下してしまう人もいる。

 届かなくていい荷物なんてないのに。

 届けられなかった想いを抱きしめた時ほど、強く、そう思う。

 

 おくりものが、いいものばかりとは限らない。

 ただ、届けばいいのだとも思わない。

 それでも、重い足を上げ、上がる息にあえぎ、足を踏み出す。

 それは、待っている人がいるから。

 届けられる側というのは、届く物や思いだけを待っているんじゃない。

 届く事そのものを待っている。想いが届く未来を、待っている。

 だから、この背中に在るのは、物であり、想いであり、未来なんだ。

 

 重い。

 なんて重いのだろう

 それでも、届けたい。届かなくていいものなんてない。

 届けるものの重さを想う時ほど、強く、そう思う。

 誰かから誰かへ、想いを繋ぐ誰でもない誰かは、今日も、足跡を刻む。

 重く、深く。一歩、また一歩。

 届ける想いが、訪れる未来が、幸せなものでありますようにと、祈りながら。

刹羅木劃人の星見棚

一つの本は一つの世界、一つの星。

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