Fuckin'days【3:1アウトロー活劇台本】

 

男:女 3:1

ライナート

なんでも屋を構えるハードボイルドなアウトロー。銃の扱いに長けており、自分の流儀を曲げない下品な奴。32歳

ギルベルト

ライナートの相棒。車輛の運転や薬品、爆発物の扱いが得意。ライナートとはなんでも屋を始める前からの付き合い。36歳

キスティア

父の遺産を継承し、自らの意思を成し遂げるため決意した少女。いろいろ面倒事を抱える星の巡りだが、それに負けないタフな精神の持ち主。19歳

ロイ

キスティアの兄。野心家。小物界の大物といったイメージ。自分の欲望に素直で、ある意味手を抜かない努力家。物事を見る視野は広いものの、しかしながら悪の親玉をやる才能はない。24歳

以下本編





――通話中・ヘリコプター内

ロイ:「ああ、金に糸目はつけなくていい。私ももうすぐそちらに着く。所詮は時間稼ぎにしか使えないゴミどもだ。私の世界には要らない人種。どうせ消すことになるのだから、どれだけ死んでもかまわんさ。

向こうに着いたという二人も殺して構わん。そうだ。その少女だけは絶対に見失わない様に言い聞かせろ。殺すなとも。私が新しい世界の扉を開く為の鍵を持った金の卵なのだからな。切るぞ。何かあれば報告しろ」

――通話終了

    

ロイ:「ふ、ふはははは、もうすぐだ。もうすぐだぞ。揺籃の時は終わる。世界は私の手中に収まる。どれだけ腕の立つボディガードを雇ったところで、私の前には無力だ。待っていろ。世界でたった一人遺された、この血を分けし我が妹よ」


********************


中東 無法者たちが幅を利かせる砂まみれの、それでいてごろつきどもの活気に満ちた乾燥地帯のさび付いた街。

 街中の広い大通りをいくつものエンジン音が駆け抜ける。カーチェイス。追手は3台。逃げるは一台のジープ。

 互いに窓から身を乗り出し撃ち合いの最中、追われる側の車輛で、既に6台分の追手を仕留めた男が、もうやってらんねぇとばかりに吼える。


ライナート:「Fuc〇!fu〇k!f〇ck!〇uck!!!!」

ギルベルト:「馬鹿野郎!悪態ついてる暇があんなら撃ち返せ!」

ライナート:「やってんだろうが!てめぇこそビビってねぇでアクセル踏み抜きやがれ!」

ギルベルト:「ちっ!何人いやがんだ!おい嬢ちゃん、お兄様の手下とやらはまだいんのか?」

キスティア:「精鋭の数は少数でしょうが、有象無象ならいくらでも。あなた方のように、金で雇われる輩はいくらでもいますからぁっ!?」

ライナート:「はっはぁ!舌噛むぞ嬢ちゃん、しっかり掴まってなぁ!」

ギルベルト:「こんなゴロツキだらけの街で探し物しようってんだ、積める金があるなら手駒は増やし放題だもんなぁ」

ライナート:「ああ!奴らの手下以外にも、同業者の顔がちらほら見えるぜ」

ギルベルト:「つーことは相手するだけ無駄ってこった。こっちのケツの穴が増える前にご退場願おうか。ライ!タイヤだ!」

ライナート:「オーライ!」

 ライナート、追手の車3台のタイヤを撃ち抜く

キスティア:「すごい。一発も外さずに」

 ドアから身を乗り出していたライナートが座席に戻る

ライナート:「よっと。まあこんくらいは朝飯前だな。惚れちまったかい?」

キスティア:「冗談はその下劣な品性だけにしてください。

キスティア:まあ、私の見立ては間違っていなかったようで、安心しました。腕だけは確かですね」

ライナート:「はいはい、おっかねぇ嬢ちゃんだ。それで?行先はどっちだ」

キスティア:「南西の遺跡へ。そこが、父が遺した手記に記されていた場所です」

ライナート:「ギル!」

ギルベルト:「ああ、場所は分かった。30分ってとこだな」

ライナート:「じゃあ、その間にじっくり聞かせてもらおうか。

金額と大筋の話を聞いて依頼を受けたが、詳しい話を聞く前に奴らの襲撃にあっちまったからな」

ギルベルト:「あー思い出しちまった。窓ガラスは粉々、壁とソファは穴だらけ。帰るのが憂鬱だぜ。あのクソったれ共め」

キスティア:「依頼が成功したなら、その費用も補填します」

ライナート:「おっ!まじで!?聞いたかよギル、この嬢ちゃん太っ腹だぜ!」

キスティア:「先ほどから嬢ちゃん嬢ちゃんと、いいかげん名前で呼んでいただけませんか?小馬鹿にされているようで不快です!事務所を訪ねた時に、キスティア・ハームと名乗ったはずですが?」

ギルベルト:「フッ、見た目にそぐわねぇ強気な嬢ちゃんだ」

ライナート:「まぁまぁ、そうイライラしなさんなって。まだ若ぇのに、小じわが増えちまうぜ」

キスティア:「―っ!!ほんとに大丈夫なんでしょうね?!失敗すれば、報酬も事務所の修繕もナシですよ!」

ライナート:「そりゃご安心を。法典なんてケツを拭く紙以下に成り下がったこのウェッジロックでその名を知らねぇ奴はいねぇ。それが俺たち、ライナート・ケーレンニッヒとギルベルト・バーンデック、世界一位イケてる『なんでも屋』さ」

キスティア:「あなたたちがどれだけの大言壮語を並べようと、軽薄で下品で意地汚かろうと、依頼を達成してくれるなら私は何でも構いません」

ライナート:「だったら、呼び方も好きにさせてもらおうか、嬢ちゃん」

キスティア:「~~っ!」(イライラした唸り声)

ギルベルト:「で、そんな嬢ちゃんが俺たちみたいなはぐれものに頼んでまで探してる親父さんの遺産ってのは、なんなんだい?」

キスティア:「……核よりも、恐ろしい兵器になりうるもの」

ライナート:「っ!!」

ギルベルト:「核だと?」

キスティア:「父は精神感応技術の研究者でした。とある軍で、数年だけある研究に従事していました」

ギルベルト:「精神感応ってーとサイキックとかサイコメトラーとかか?オカルトだろ?」

キスティア:「一般的にはそうです。でもかつて、世界大戦期の一部の国家は熱心に研究を重ねていた。

軍事転用が可能であれば、戦争の趨勢(すうせい)を覆(くつがえ)す可能性があると」

ライナート:「軍、ねぇ。まあ確かに、国家ってのは裏で何でもやってるもんだが」

キスティア:「父はその研究を再始動させるプロジェクトの責任者でした。研究再開のきっかけは、ある石の発見です」

ギルベルト:「石?」

キスティア:「父の手記の中では、『賢者の石』なんて呼び名で出てきます。人の思念を増幅させる魔石、なんだとか」

ライナート:「いよいよオカルトじみてきやがったぜ」

キスティア:「父はもともとは、脳科学者だったんです。腕や足を失った人の義手義足へ電気信号や脳波を伝達する技術を研究していました。

キスティア:それに目を付けた軍の方が、その研究に応用するために父を招き入れたのです」

ギルベルト:「親父さんは、それに応えちまったのかい?」

キスティア:「知識欲の人でしたから。興味をそそられると止まれなかったんだと思います」

ライナート:「それで、完成しちまったのか?銃弾もミサイルもなしで他国の軍隊を圧倒できるような超能力をだせる技術が」

キスティア:「表向きには、失敗という形で終わりました」

ギルベルト:「ということは、実際には形になったんだな」

キスティア:「はい。ただ、超能力と言っても、手を触れずに物を動かしたり、超常現象を引き起こすようなものではないんです」

ライナート:「するってーと、心が読めたり人を操ったり?」

キスティア:「そういうイメージが近いでしょうね。その技術は、他人の欲望を選択し、増幅するという作用をもたらす仕組みとして完成しました。

父は、それが軍事転用されることを怖れ、研究は失敗したという虚偽の資料と報告を提出したのです」

ライナート:「軍事転用…ハッ!fucking crazy」

ギルベルト:「なんとなくイメージはついたぜ。相手の軍隊とかち合おうって時に、『自殺願望』なんかの感情を増幅させられれば、相手は勝手に自滅するって寸法か。

ギルベルト:そいつは大規模にかけられるもんなのか?」

キスティア:「賢者の石のおかげで、数万人単位の規模で影響を及ぼすことが可能です」

ライナート:「そんなもんがホントに使われちまったら、虐殺どころじゃないな。地獄だ」

キスティア:「父はその真実を葬りたかった。でも完全に抹消しようとすれば、軍関係者にかぎつけられる。だから、ある程度本物の研究資料を遺し、『力を尽くしたが失敗した』という格好を取ることにした」

ギルベルト:「賢い親父さんだ。物を隠すなら、探す人間に探す気を起こさせなきゃいい」

ライナート:「だが、死に際になってその恐怖を抱えたまま逝くのが不安になった。いつか誰かがたどり着くんじゃねーかと怯えた。だから遺産ってわけか」

キスティア:「ええ。私たち兄妹は、遺産としてその技術の秘匿、可能なら破壊する使命を継承した。でも兄さんは…」

ライナート:「まあ、そんな技術一人占めに出来るってんなら、世界征服なんて絵空事も夢じゃねぇ」

ギルベルト:「妹に銃弾の雨を降らせるくらいには、兄さんは本気ってこったな」

キスティア:「父は、薄々わかっていたのかもしれません。だから、この手記を私だけに託した」

ライナート:「なるほどねぇ。だがいいのかい嬢ちゃん。そんな話をこんな野蛮な連中に聞かせちまったら、お兄様と同じように野獣になっちまうかもしんねぇぞ?」

キスティア:「システムの起動には生体認証が必要です。私か兄のDNA情報と、システムを起動したいという意志が。

まあそれも、この先の時代でいつ破られるかわからないセキュリティだけど、今のあなた方にはどうしようもないので、安心して依頼をこなして報酬をもらうことだけ考えていてください」

ライナート:「そいつぁすげーや」

ギルベルト:「まあそんなおっかないもの、使えたっておいそれと触りたくはねぇわな」

ライナート:「可愛い女の子のエッチしたいって欲望を全開にするのはアリだろ!いーじゃねぇかどうせ生理現象なんだしよォ。ちょっとムラムラっときて股開くぐらいフツーのことだよなぁ!」

ギルベルト:「知ってるぜそれ。ニホンでは『ウスイ本がアツクなる』って言うんだ」

ライナート:「ゲへへへへへ」

ギルベルト:「ガハハハハハ」

キスティア:「はぁ、やっぱり頼む相手間違えたかも」

 間

ギルベルト:「おっと、見えてきたぜ。嬢ちゃん、あの遺跡で間違いないか?」

キスティア:「ええ。あそこが、賢者の石が発掘されて、父の研究資材もそのままになっている遺跡で―」

ライナート:「シッ!静かに」

ギルベルト:「ライ、何が聞こえる?」

ライナート:「これは――カサッカだ!ギル!アクセル全開!」

ギルベルト:「Shit!」

 アクセルによる急加速の瞬間、上空のヘリから機関砲による銃撃の嵐

キスティア:「きゃああああああああああ」

ギルベルト:「奴(やっこ)さん、比喩でもなんでもねぇ銃弾の雨を降らせてきやがった!」

ライナート:「クソったれ!ヘリなんてもんまで持ち出してきやがって!

同じ土俵で戦う度胸もねぇなら、帰ってママのおっぱいでも吸ってやがれってんだ!

あの距離じゃ反撃も出来ねぇ!ギル!遺跡の入り口が洞窟みたいになってる!突っ込め!」

ギルベルト:「うぉおおおおおお掴まってろよぉ!!!」

ライナート:「嬢ちゃん!頭下げろ!体に余計な穴が増えちまうぞ!」

キスティア:「~~~~っ!」(言われた通り歯を食いしばって、声にならないうめき声をあげる)

ギルベルト:「対ショック姿勢!急停止まで4、3、2、――今!」

キスティア:「きゃっ!!」

ライナート:「のわぁっ!!」

ギルベルト:「ふーっ。大丈夫か?奴らが来る前にすぐ降りるぞ」

ライナート:「風通しがよくなったのは車だけで済んだみてぇだな」

キスティア:「けほっけほっ。この先に、父が隠した本当の研究成果とその機材があります。それを破壊してください。

キスティア:先ほどのヘリに乗っていたのは兄の私兵。雇われのゴロツキとは違います。きっと兄自身も来ている」

ライナート:「じゃ、急がなくっちゃな」

ギルベルト:「走るぞ。ついてこれるか、嬢ちゃん」

キスティア:「もちろんです。行きましょう」

 遺跡を進む一行

キスティア:「はっ、はっ、はっ――ついた。ここです」

ライナート:「ほーう、古くせぇ石だらけの遺跡の壁に、場違いな指紋認証のパッドと鉄製のスライドドア。間違いなさそうだな」

キスティア:「いま、開けます」

 扉が開き、研究区画に入る一行

ギルベルト:「なるほど、ここはもともと遺跡の中でも秘匿された場所だったようだな。まるで祭壇だ」

ライナート:「こいつが、賢者の石か」

 人の頭蓋骨くらいはあるルビーのような緋色の宝玉と、それを取り囲む大小の機材を見つける一行

キスティア:「間違いないです。手記の記録とも一致します。では早速破壊の準備を―」

ロイ:「そこまでだ、愚かな妹よ」

ライナート:「っ!!囲まれた」

キスティア:「――お兄様」

ロイ:「初めまして、何でも屋のお二方。私はロイ・ハーム。そこの愚妹の兄だ。ここに至るまでの水先案内、ご苦労。だが、もう用済みだ」

ライナート:「遂にラスボス登場って感じか?こりゃ」

ロイ:「お前を追って正解だった。やはり父はお前だけにヒントを渡していたのだな」

キスティア:「考え直してほしいとお願いしても、無駄なのでしょうね」

ロイ:「当たり前だろう?私とお前では遺産相続の捉え方が違うのだから。」

ライナート:「捉え方?おい嬢ちゃん、お前の兄さんは世界征服を企んでる悪党って話じゃなかったか?」

ロイ:「愚妹になにを吹き込まれたかは知らんが、私はそんな子供じみた目的で動いているわけではない」

ギルベルト:「じゃああんたは、この子供には過ぎたおもちゃで、一体何をやろうってんだ」

ロイ:「選別だよ。この世には無駄が多すぎる。物も人も、過剰にあふれかえっている。だから、いらないものを処分するんだ。要はごみの分別と廃棄だよ」

ライナート:「おいおい、オカルトの次はSFかぁ?人の心を操る毒電波で選民しようなんて、いい悪党っぷりじゃねぇか」

ギルベルト:「その選別の基準は」

ロイ:「もちろん、私だ。私が選び、私が拾い、私が捨てる」

キスティア:「そんなもの、世界征服より質(たち)が悪いわ」

ロイ:「だが父の遺言はこの遺産の秘匿だ。私とて、これの存在を公にするつもりはない。ただ、誰にも悟られないように有効活用させてもらうだけだ」

キスティア:「それは結局、お父様の遺志を蔑ろにしています!世間に知られなければいいなんて屁理屈です。お父様は、これが誰かの手によって悪用され、誰かが傷つくことを怖れた。それくらいは、お兄様だってご理解なさっているはずです」

ロイ:「フフフ、確かにな。だがなキスティア、私は知ってしまった。知ってしまったんだよ。こんな素晴らしい技術を知ってしまっては、もう後戻りなどできない。

いつの時代も、技術の進歩は人の営みを更なる高みへと引き上げてきた。

今先進国に生きる人々が、果たしてスマホやインターネットがなかった時代へと戻ることが出来ると思うか?私は思わない。これはそれと同じことなんだよ

卵から孵った雛を元には戻せないように、生まれてしまった技術を無かったことにはできない。

より良い明日を、より良い世界を求める人の欲を否定する事は不可能だ!私は、自らが信じるより良い明日のために、この遺産を使う。そう、私は素直なんだよ。自分の欲に」

ライナート:「なるほど。私利私欲の権化(ごんげ)だな、こいつぁ」

ロイ:「ふん、言ってくれるじゃないかなんでも屋。あの掃き溜めのような街ではそれなりに名が通った腕利きのようだが、こちらは世界の軍事技術の最先端を行く最新装備!数も君らの倍だ。勝ち目はないぞ」

ギルベルト:「確かに。見てみろよライ、あいつらの装備、全部最新モデルや試作段階のニューフェイスだぜ」

ライナート:「What the fuck!じゃらじゃらと金のかかりそうなモンばっかぶら下げっちゃってまぁ」

ロイ:「そう、この世は金だ。人は心動かされるものに金を払う。逆説的に、金は人の心を動かすのだ。そうして俺は人を、組織を、力を手に入れた。だがまだだ、まだ足りない。父の遺産があれば、私は全てを支配し、神のごとき全能を掌中(しょうちゅう)に収めるだろう」

ライナート:「なるほどなるほど。気持ちのいいくらいの悪党っぷりだ。金にものを言わせて他人を支配して悦に入(い)る、まさに外道って感じだ」

ロイ:「貴様らとて同じだろう?何でも屋。金を積まれれば何でもやる。資本主義を体現しているような存在じゃあないか」

ギルベルト:「へっ、まあそうだな」

ライナート:「ちげぇねぇ」

ロイ:「ここで無駄な血を流すこともあるまい。キスティアが支払った倍の額をくれてやろう。どうだ、これからは私の為にその腕を振るうというのは?そうすれば、お前たちには私の創造する新世界に居場所をくれてやろう」

ライナート:「ほっほぉ、そいつぁうまい話だな」

ギルベルト:「ああ。こんな奴ら相手にして命(タマ)落っことすよりよっぽど賢明だ」

キスティア:「あなたたち!――いえ、止めはしません。もとよりあなた達には関係のない話。金で雇われただけのあなた達に、私に付き合って地獄に落ちる義理はありません」

ロイ:「ふん。愚妹にしては潔い判断だな。では諦めておとなしくして―」

キスティア:「でも、けじめはつけさせていただきます!」

 キスティア、懐から拳銃を取り出しロイへ向ける

ロイ:「なっ!?」

ライナート:「ちょっ!」

キスティア:「お兄様!お覚悟を!!」

 キスティア、発砲。ライナートが銃身をそらし、弾丸はロイのこめかみを掠める

 銃弾のSEなど流せたらここで。

ライナート:「っふぅーー。おいおい、そんな物騒なもん持ってたのか。つーか狙い良すぎだろ。俺が銃身そらさなきゃ眉間ぶち抜いてたぜ。ほら、なんかいい感じの剃り込み入っちゃってるじゃん。感謝してくれよな―!お兄様―!」

ロイ:「やってくれたなァ、キスティアぁ!」

キスティア:「どきなさい!これを破壊できないのなら、兄を殺して私も死にます!」

ギルベルト:「やれやれ、覚悟ガンギマリじゃねぇか。どうすんだ相棒」

ライナート:「へっ、決まってんだろ?依頼継続だ。キスティア、下がってろ」

ロイ:「愚かな。わざわざ命を捨てるような真似を」

ライナート:「そいつぁ、どうかな?」

 ライナート、ホルスターからリボルバーを抜く

ロイ:「SAA(シングル・アクション・アーミー)だと?そんな骨董品で新装備とやりあうつもりかね?」

ライナート:「あんたさっき言ってたな、技術の進歩は人を豊かにするって。確かにそりゃそうなんだろうさ。でもな、それでも変わらず残るものってのはあるんだ。それは新しく生まれたものにはない、長年人に寄り添ってきた経験と、無骨な信頼がある。

こいつだって同じだ。長く愛用されてる銃ってのは、単純ゆえの信頼性と手になじむ感覚ってもんがあんのさ」

ロイ:「懐古趣味に付き合ってはいられないな。愚妹共々野たれ死ぬがいい!お前たち、撃t―」

ライナート:「遅ぇ」

 ロイが合図を出し、私兵が銃を構え撃つまでの間に、落雷のような轟音が遺跡内に木霊した

キスティア:「なに?今の雷みたいな音は」

ギルベルト:「ライの特技だ。神速の早打ちは、発砲音さえ同時に聞こえる。一瞬のうちに数発分の破裂音が轟くと、まるで雷みたいに聞こえるのさ」

 次々に倒れる私兵4人

ロイ:「馬鹿な…4人を一瞬でっ!?」

ライナート:「結局道具なんて扱う人間次第なのさ。銃も、あんたらの親父さんの遺産もな」

ロイ:「お、おい!お前ら金を積まれれば何でもやるんだろ!?キスティアの3倍、いや5倍出す!今からでも遅くないぞ。私の手下に」

ライナート:「勘違いしてるようだから言ってやるぜ。俺たちなんでも屋は、なんでもやる。だがその中には、気に食わねぇ依頼は蹴っ飛ばすってのも入ってんだよ。

なんでもやるが、何をやるかは俺たち自身が決める。それが俺たちの流儀だ」

ロイ:「く、クッソォォォォォ!このゴミムシどもがァ!」

ライナート:「おっとォ!」

  ロイ、悪あがきに銃を取り出そうとするが、ライナートの早撃ちが顔の近くで炸裂

ライナート:「フッ。剃り込みが片方じゃアンバランスだからな。もう片方も入れといてやったぜ、お兄様」

ロイ:「う、うがぁっ」

 ロイ白目剥きながら気絶

ライナート:「ギル~こっちは終わったぜ~」

ギルベルト:「こっちもセット完了だ」

キスティア:「ギルベルト、あなた何を」

ギルベルト:「ライが目を引いてドンパチやってる間にC4の設置をな。あとは起爆スイッチを入れれば、どかんだ」

ライナート:「機械の扱いやら薬品、爆弾の取り扱いなんかはギルの十八番(おはこ)だからな。さーて、ずらかるぜ。おっと、お兄様も連れて行かなきゃな」

キスティア:「兄は、無事ですか?」

ライナート:「キスティアと俺で入れてやった剃り込み以外は、まあ鼓膜がいっちゃってるかもってくらいだな。命に別状はねーよ」

キスティア:「そう、ですか。ありがとうございます」

ギルベルト:「キスティアも怪我はないな。よし!引き上げるぞ。車を少し走らせたら起爆だ」

 脱出後・車内

ギルベルト:「よし、この辺でいいだろう。キスティア、押していいぞ」起爆装置を放り投げながら

キスティア:「私ですか?!」

ライナート:「親父さんの遺産だろ。お前が送ってやんな」

キスティア:「で、では。――えいっ!」

 後方の遺跡から発破音が響く

キスティア:「きゃっ!」

ライナート:「おー!ド派手だねぇ。クソったれな日だったが、最後に一発デカい花火があがるたぁなー。あっはっはっは」

キスティア:「二人とも、ありがとうございました。それと…ごめんなさい」

ライナート:「ん?なんで謝罪が出てくるんだ?」

キスティア:「お兄様にこちら側に着けと言われたとき、二人とも私を見放すと思っていました。所詮は金で動く何でも屋。信念なんてない無頼者だと。

キスティア:貴方たちを見くびって、過小評価していました。これは侮辱に値します。だから―」

ギルベルト:「あっはっは。素直だなーキスティアは」

ライナート:「いーんだよそんなこと謝んなくたって。その認識は間違っちゃいないしな」

キスティア:「でもあなたたちは」

ギルベルト:「別に、正義の味方ってわけでもない。自分たちのやりたいようにやってるだけの無法者さ」

ライナート:「さっきお前の兄さんも言ってたろ?技術の進歩は人の営みを豊かにする。ウェッジロックみたいなゴロツキだらけのしみったれた街とは比べ物になんねぇ平和な暮らしってのは確かにある。

だが俺たちはそこじゃ生きていけねぇ。俺たちは、地獄を歩いてきたからな」

ギルベルト:「眉間(みけん)の銃創(じゅうそう)から脳漿(のうしょう)を、股の穴から精液を垂れ流す娼婦の死体やら、どってっぱらから入り込んで腹んなか暴れまわって出ていった銃弾のせいで、今にもまろびでそうな自分の腸を抱えて歩く少年兵とか、そんなもんを見ながら生きてきた俺たちには、合わねぇのさ」

ライナート:「撃って撃たれて、砂と血に塗れたこのクソったれな日々を生きていくのが、俺たちの生き方だ。おっと哀れむなよ。俺たちはそれでも、胸張って生きてんだ」

キスティア:「そう、ですか」

ギルベルト:「それよりキスティア。兄さんはどうすうんだ?」

キスティア:「ゆっくり、話し合ってみます。父の手記には、兄へ宛てた言葉もたくさんありました。

キスティア:兄と父は疎遠でしたが、父は決して兄のことを忘れ去っていたわけではないんです。その証拠に、あのシステムの生体認証は、私と兄の二人分でしたから」

ギルベルト:「なるほどね。どんな道具も使う人次第。親父さんは、信じてたんだろうな。二人のことを」

ライナート:「その手記とメッセージこそが、ホントの遺産ってことだな。ま、俺たちには関係ねぇ。そこはキスティアと兄さんだけのエピローグだ。せいぜい、心ゆくまで話し合うこった」

キスティア:「はい。―――ところで、いつから私のこと、嬢ちゃんじゃなくて、名前で呼ぶようになったんでしたっけ?」

ギルベルト:「お、気づいたか」

ライナート:「さーてねー、どっからだったかなぁ?」

キスティア:「もう、茶化さないで教えてくださいよ!」

ライナート:「あっはっはっは。思い出してみな。俺もギルも、同じタイミングだぜ」

キスティア:「えぇ?いつ、から??」

 

ライナートモノローグ

ライナート:覚悟を決め、行動を起こす気高い魂には敬意を払う。たったそれだけの、簡単な流儀って話なんだがな。

地獄みてぇな最悪の日々を、笑って、胸張って生きていくにゃ、見失っちゃいけねえもんがある。時代に左右されない意志と覚悟って奴は、いつだって心の真ん中に、どっしり構えておくもんさ。

それが俺たち、何でも屋の流儀。それさえありゃ、このクソったれな日々だって、愛しく思えてくるもんさ。ほんのちょっとだけな。


The fucking days will continue

刹羅木劃人の星見棚

一つの本は一つの世界、一つの星。

0コメント

  • 1000 / 1000