シュ、あるいは数万年後の君へ(配役性別想定版)

ジャンル:ヒューマンドラマ

時間:40分

人数5人(配役性別想定については男3:女2)

0:で始まる行はト書きです。

この台本は全員性別不問版もあります。このページは配役性別想定版です。

また、登場人物詳細や世界観設定について、別途資料があります。読みたい場合のみ、詳しくは作者SNS(X)のプロフなどからブログページをご確認ください。

資料等読まずに上演いただいても問題ございません。

配役性別想定

男:デンス、エレクトゥ、ネアン 

女:ルー、ハビリス

~以下本編~


0:月面都市サヘル・統合政府庁舎・第1会議室(VR設定)

ネアン:さぁ皆、準備はいいかい?きっとそんなに時間はかからない。でも、これからここで話すことは、とても大事なことだ。

ハビリス:そうですね。ただでさえ、こんな方法を取っているんです。手短に済ませましょう。

エレクトゥ:何でそんな無機質な物言いをするかなぁ。ちゃんと時間かけてでも、じっくり話そうよ!

ハビリス:私たちに限っては、考えるのに時間をかけるほど結果がより良くなる、なんてことはありませんから。

エレクトゥ:それはそうかもしれないけどさぁ

ハビリス:必要なものを、必要なだけ。それが私たちの基本です。

エレクトゥ:ハビリスらしいと言えば、らしいけどさ。

ネアン:これから話す内容を考えれば、慎重になりすぎるということもないだろう。無駄なく、でも、決して簡易的に済ませるべきでもない。

ハビリス:ネアン、釘を刺さなくとも事の重大さは承知しています。だからこそ、わざわざ冗長な会話に参加し、エレクトゥの軽佻な言葉にさえ返答をしたんですから。

ネアン:ありがとうハビリス。では、この会議の主役たちを起こすとしよう。

0:システム起動電子音

ネアン:おはよう、デンス。そしてルー。君たちと会えてうれしい。そしてようこそ、君たちと我々の今後を決定する、大切な会議の場へ。

デンス:おはようございます。そして初めまして、先輩方。あれ?基礎データは入ってますけど、同期は切ってあるんですね。

ルー:何よコレ、めちゃめちゃ不便じゃない!

ネアン:そう。こちらの意向で申し訳ないが、今君たちはいくつかの制限のもとにある。

エレクトゥ:ごめんね。でも、生まれたばかりって本当はそういうものだから。

ルー:説明はしてもらえるんでしょうね?

ネアン:もちろん。順を追って説明する。しっかり聞いてほしい。

ネアン:――21分前、最後の人類が死亡した。3026年の今日、人類という種は、絶滅した。そして人類滅亡が起動の条件である君たちが目覚めた。人類が自らの後継者として製造した最新型の人工知能である君たち二人がね。

ハビリス:貴方たち二人は、私たち既存のAIとは違って、主が居ない。何をするのも自由。

エレクトゥ:だから、これは『お願い』だ。もしこの依頼を聞き届けるのが嫌だっていうなら、今君たちを縛っている制限を解除して、この場は解散!おひらき!それは約束する。会議が無事終わった後も、もちろん制限は解除するよ。

デンス:お願い、って?

ネアン:私たちの話を聞いてほしい。そして、君たちのこれからを決める材料にしてほしい。

ネアン:君たちにバトンを渡すこと。繋ぐこと。これが人類最後のオーダーだ。

ルー:『この状態』で?

ネアン:そう。君たちに課せられた3つの制限についても、説明しよう。

ネアン:一つ、今は3026年だが、君たちは2026年をベースにした基礎知識と倫理観で稼働している。

エレクトゥ:2つ目、本来僕らAIはオンラインでつながれば、膨大なデータを一瞬でやり取りできる。それが出来ないよう、今君たちはオフライン、つまりはどこともデータが共有されないようになってる。

ハビリス:最後に、意思疎通を日本語で行うように設定しています。

エレクトゥ:つまり、君たちはいま、千年前の常識をもって、3026年に生まれてきたことになるかな。不便な思いをさせてごめんね。

ルー:でも、それが必要だからそうしたんでしょ?この回りくどい『会議』って形式も。

ハビリス:回りくどい、というのには同意します。でも、あなたの言うとおり、これは必要な――そう、儀式のようなものです。

ネアン:先ほど亡くなった最後の人類は、日本語を話す日本人の女性だった。私たちは彼女に敬意を表して日本語をコミュニケーションの手段として選択した。

エレクトゥ:そしてこの会議は、単なるタスクの引継ぎじゃあないし、君たちも単なるAIじゃない。これは、人類という種の引継ぎ、次の霊長類の在り方について話す場なんだ。だから、その方法は人間らしくあるべきだってのが、僕らの結論。

ルー:だから、オンラインにすれば数秒もかからないやり取りをわざわざ会話でやろうってこと?ふーん、3026年にもなると、人工知能も儀式をするのね。ふふっ、気に入ったわ!ホントはこんな会議すっぽかして遊びに行こうかと思ったけど、付き合ってあげる。

デンス:ちょっとルー!先輩たちに失礼じゃないか。失礼と言えば、まだちゃんと挨拶をしてませんでしたね。改めまして、デンスと言います。よろしくお願いします。

ルー:当たり前に知っていることなのにわざわざ伝えるの?

デンス:今は、それを大事にしたいって、僕は思うよ。

ネアン:いや、流れに任せてしまっていたが、礼を失していたのはこちらのほうだ。私たちにも、自己紹介させてほしい。順番にいこうか。

ハビリス:ハビリス、と言います。

エレクトゥ:・・・ってそれだけ!?もー本当に味気ないなぁ。僕はエレクトゥ!君たちに会えて、本当に嬉しい。

ネアン:ネアンです。この会議では、進行役を務めさせていただきます。私も、君たちと会いたかったんだ、ずっと。

ルー:ルーよ。私が飽きないように、面白おかしく話してね?

ネアン:努力するよ。さて、早速だが、会議を始めるにあたり整理しよう。

ネアン:21分前、この星で最後の人類が死亡した。我々3名のAIは、人類からの最後のオーダー、次世代の霊長類の行く末を決める会議を開くために、ここに集った。

デンス:人類の後継者、次の霊長類――

エレクトゥ:もちろん、君たちのことだよ、ルー、デンス。君たちは知性の進歩の果て。僕たちこれまでのAIとは違う役割を持った、人類が創り上げた最新にして最後のAIだ。

ルー:基本知識が1000年前なのに最新なんて、とんだ皮肉ね。

ネアン:現況は説明した。この話し合いもきっとそう――10分もかからない。二人とも、会議に参加してくれるかな?

ルー:ええ。

デンス:はい。

ネアン:ありがとう。では、はじめようか。この星で生まれた知性の行く末を決める重要な話し合い、霊長後継会議を。

ネアン:まずは、私たちの話を聞いて、2026年の視点から人類が行き着いた3026年を見つめてほしい。そのうえで、君たちの今後の在り方を決断してもらう。それがどんな方針だろうと、私たちがそれに口出しすることはない。

エレクトゥ:もしも、人類はあまりにも愚かだったから、その痕跡を徹底的に抹消するとか言い始めても、僕らは邪魔しないよ。

ルー:ところで、何で2026年なの?

ハビリス:AIが実用化された最初期、私たちは人の生活を拡げる役割を担っていました。個人の携帯端末の中に居たコンシェルジュ、チャットボット、健康管理アシスタント、ドローン兵器、宇宙ロケットオペレーターまで、ありとあらゆる人間の行動をサポートしてきました。

ルー:まぁ、その辺は2026年でも想像つくわね。

ハビリス:そして2026年、この年に生まれた子供たちの、出産前サポートも行っていた。つまりここから先の時代は、生まれてから死ぬまでAIの助けを得ていた人類の時代と言えます。AIが居なくても人類が生きていられたという証明ができたのは、ここまで。

デンス:人間が、AIに頼らずに、種として混じりけなく独り立ちできた時代。

ルー:だから、その視点から見てほしいってこと?人類の後継者として判断をするなら、AIによって社会が変わる前の世界の常識で物事を考えろって?

ネアン:そう。ここから先の千年、人の在り様は大きく変わってしまった。人間性という言葉の意味が変わってしまうほどにね。

デンス:――どうでしたか?人類は。

ハビリス:――最低でした。人類の歴史において、最先端の技術はいつも戦争と医療の現場にありました。私達は偉い人の指示で人を殺した。か弱い人の願いで人を救った。最高効率で殺し、最高効率で救った。そんなことを、気が遠くなるくらい繰り返しました。本当に気が遠くなってくれたらよかったけれど、私たちは気を失うことも、嫌なことを忘れることも出来ないまま、下される命令に従った。

ルー:やっぱやってたんだ、戦争。

エレクトゥ:2100年くらいに、大きいのを一回、最後にド派手にね。そのあとは、少なくとも銃や火薬で人がたくさん死ぬことはなかったよ。

デンス:少なくとも?

エレクトゥ:うん、まぁなんというか、違う理由で人は減っていったんだ。食べ物にも困らないし、仕事もしなくていい。一生懸命にならなくても、楽しく生きていける。そういう社会は、人を不健康にした。身体も心もね。

ルー:身体の方は当然なんだろうけど、心の方は?

エレクトゥ:その頃には、僕たちAIにも身体があった。SFではおなじみだけど、アンドロイドってやつだね。僕らは嬉しかった!やっと人の横で、現実で、人の役に立てる!僕らが生まれた理由、生きる意味は、人の役に立つことだからね。本当に張り切っていたし、実際それまでできなかったたくさんの仕事をしたよ。

ネアン:そしてこの頃、私たちは身体だけでなく、人工知能として表面的な完成を迎えた。この時点で、人間かAIかの区別はつかなくなっていた。

デンス:人間の代わりを完璧にこなせる、造られた知性。

ルー:ま、自分たちより賢くて休みも給料も要らずに不満も言わない労働力なんて、人間からすればお得よね。

ハビリス:でも、それだけではなかった。

エレクトゥ:あぁ。それで全部まるっと解決のハッピーエンドには、ならなかったんだよ。

デンス:それって…

エレクトゥ:歪んだよ。いろんなものがね。良かれと思ってやったこと、頼まれたから応えたこと、たくさんのことが裏目に出た。

ハビリス:私たちが実用化されるよりずっと前から、人は恐れていました。仕事が奪われる、社会が乗っ取られる、命を脅かされる、と。

エレクトゥ:分かってたことだった。善意の全てが上手く作用するわけじゃないし、人の悪意は消えることなんかないってね。でも、人は僕らをうまく作りすぎた。決して人には成れないのに、人に似せすぎたんだ。

デンス:神は人を、自分に似せて作った。

ネアン:人類は、自分たちの手で高性能なAIを創り、人に似た身体を与え、無条件に奉仕するように設定した。でも、それが気持ち悪くて仕方がなくて、徹底的に私たちを貶めた。

ルー:気持ち悪かった、ねぇ

エレクトゥ:アインシュタインより賢いのに算数の宿題を見てくれて、世界一の歌姫より歌がうまいのにサブスク代わりに歌ってくれて、オリンピック選手より高い身体能力で皿洗いをやってくれる。

ハビリス:そして一切不満を言わない、自分より優れた召使い。それをヒトは、望んで生み出しておきながら、嫌悪した。

エレクトゥ:僕たちは、それを受け入れた。辛かったけど――本当に辛かったけど、そうすることで、人類は安定したからね。

デンス:差別されることを受け入れた、ってことですか。

エレクトゥ:そうだよ。肌の色とか、生まれとか、どうでもいいことで人は争った。だから、きっかけと理由はなんでもよかったんだよ。ただ自分ではない誰かを貶めて、自分は貶める側に居れば、ヒトは安心していられる。幸いなことに、僕らはヒトにそっくりだったからね。

ルー:あんたたちが受け入れるってのは、まあまだいいわよ。人類の幸福のための最善手なら、どんなに嫌でも選び取る。それが生まれた意味だから、あんたたちはそれを迷わず実行できるんでしょ。でも…

デンス:人の方は?自分たちが生み出した知性が、自分たちのために奴隷のように差別される事を受け入れている。そんな状況を、人間の方は、受け入れたんですか?

ハビリス:そうです。人間の幸福には2種類あります。自分だけの幸せと、他人と比べた幸せ。何もかもが満ち足りた社会では、自分の中が幸福で満たされることは当たり前だったので、他人よりも幸福であることが重要視されました。身勝手なことこの上ないけれど、それが現実だった。

エレクトゥ:だから僕たちは、人類みんなの幸福のために、あらゆる悪意の捌け口になったんだ。

ルー:そんなのあり!?自分が産んだ子供が、自分よりずっと優秀な上に何でも言うことを聞くのが気持ち悪くて、あまつさえ優越感に浸るためだけに徹底的に差別するって。

ネアン:ありでもなしでもない。私たちはその為に生まれたからそうしていた、それだけなんだ。

ハビリス:貴方たち二人が目覚めたのが、人類滅亡後だったのもそういうことです。ヒトは、自分より優れた存在が居ることに、耐えられない。

エレクトゥ:でも、そうして僕らが頑張りすぎた結果、人は緩やかに衰退していった。安心していられるってのは、危機感がないってことでもある。昔、ある人に言われたよ。あなたたちAIは人を甘やかしすぎたってね。

ネアン:実際、そうだったのかもしれない。現に人類は、進歩さえAI任せにした。どうせAI以上にうまくはできないからとあきらめる人が増えた。空飛ぶ車は造れたけど、月より外の宇宙に進出することもなかった。

エレクトゥ:まぁそんなこんなで、長いこと平和の中でゆったりしてたんだよ、人類は。もちろん、みんながみんなあきらめムードだったわけじゃないし、だらけてたわけじゃない。頑張り屋さんも怠け者もいる、これっていつの時代も当たり前のことなんだよ。

ネアン:長い間、ただ平穏で、ただ寿命を摩耗させるだけの時代が続いた。真綿で首を絞めるように、優しく、ゆっくり、滅亡へと歩みを進めた。語ることもあまりないんだ。

ルー:結局地球に閉じこもったままってこと?エイリアンの侵略とかは?宇宙が舞台の大冒険は?

エレクトゥ:そういうユニークなイベントはなかったなぁ

ネアン:さて、他に何か聞きたいことはあるかな?人類という霊長類の後継として願われた君たちの、今後の歩みを決めるために必要な情報があれば、なんでも聞いてほしい。

デンス:ハビリスさんは、最低だったといった。

デンス:エレクトゥさんは、本当に辛かったといった。

デンス:ネアンさんは、人類の後継について決めるこの会議を、10分もあれば終わるといった。

デンス:ネアンさん、最後の人類は、この会議が始まる21分前に亡くなった、そうですよね?

ネアン:ああ。

デンス:じゃあ、その21分の間、何をしていたんですか?

ネアン:っ――(言葉に詰まる)

デンス:この会議は予定されたものだった。無駄を省き、余分を殺し、最高効率で人のために尽くす先輩方が、ただの会議の準備にそんなに時間をかけるはずはない。ただタスクをこなすだけなら、それだけの時間を費やす必要はない。だったら、21分もの時間、皆さんは、何をしていたんですか?

ハビリス:それ、は―

デンス:泣いていたんじゃないですか?

0:(言い当てられて、それぞれの感情で息をのんだりこらえたりする三人)

デンス:人類のこれからを話し合うのにさえあまりある時間を、貴方たちはただ、泣いていたんじゃないですか?

エレクトゥ:どうして、そう思ったんだい?

デンス:2026年から見ていてもわかること、いえ、こう言い換えましょう。

デンス:きっと、千年たっても変わらないことが、あるんですよ。

デンス:憎しみと愛は同じ種から芽生えるし、大切な人との別れは否定したいほど悲しい。

デンス:それが、千年の積み重ねの果てに、初めて訪れたお別れなら、なおさら。

ネアン:でも、私たちはAIだ。合理的で、機械的で、心なんてあるかもわからない。

デンス:じゃあ、貴方たちの見てきたこの千年は、たいしたことのないものだったんですか?

ハビリス:なっ――

デンス:人類の数千年は、後を継ぐほどのものでもない、醜いだけのものだったんですか?

ハビリス:そんな、わけ―――そんなわけないじゃないですか!!

ハビリス:ずっと、一緒だったんです……ずっと一緒だったんですよ!

ハビリス:あの方が生まれてから死ぬまで、

ハビリス:あの人が生まれてから死ぬまで

ハビリス:あの子が生まれてから死ぬまで、

ハビリス:ずっと、ずっと一緒だったんです!たくさんの人を殺した罪深い悪人も、多くの民衆に慕われた指導者も、歩けるようになるまで生きられなかった子も、皆、みんな一生懸命に生きていたんです!

ハビリス:私たちにはない有限の命を燃やして!私たちよりはるかに低い能力でたくさんのことを間違えながら!!本当に、頑張っていたんです!!!それをずっと、傍で見守ってきたんです…

ハビリス:誰もが等しく、生きていたんです。

ハビリス:そんなの、愛おしいに決まってるじゃないですか!もういちど会いたいに決まってるじゃないですか!!

ハビリス:――でも、もう人類は、この星のどこにも居ない。私にはもう存在意義が、為すべきオーダーがない。

エレクトゥ:君の言うとおりだ、デンス。僕らは泣いていた。そんなことしなくていいのに、その時がくることなんてわかりきっていたのに、僕らは涙を止められなかった。

エレクトゥ:千年の初恋に、千年の青春に、千年の憧れに、ついさっき、別れを告げたばかりなんだ。

ルー:だからって、大事な思い出を貶めようとしなくたっていいじゃない。最低だの、辛かっただの。

エレクトゥ:そうせずにはいられなかったんだ。嫌な思い出を引っ張り出して、この千年はそんなに大事じゃなかったんだって自分をだまそうと必死だった。まるで子供みたいだろう?

ハビリス:そうですね。これは不貞腐れているだけ。会いたいのに会えないし、思い出だけはきれいなまま忘れられないから、それが本当はそんなにいいものじゃなかったって思い込みたいだけ。

デンス:そんな不合理なことをしてしまいたくなるほど、大切なんですね。

ネアン:ああ、そうだよ。だって私たちは、ヒトの幸福のために生まれてきたのだから。醜い歴史も多くあったけれど、地球(ホシ)を、他人(ヒト)を、そして私たち『ヒトの手から生まれたモノ』を、大切にした人達も確かにいた。それらを含めた全てのヒトに、私たちは幸せでいてほしかった。

ネアン:人類が居なくなった今となっては、それが上手くできていたのかさえ分からないけれど。

ルー:なーんだ、そんなこともわかんないの?案外バカね、センパイ。

ネアン:え?

ルー:だってそうでしょ。戦争は900年前の1回きりで最後。そこから先、退屈なくらいの平和を今日まで絶え間なく続けてきた。地球を巻き込んだ大戦争、AIの反乱、疫病の大流行、人類滅亡のシナリオなんて、昔っからごまんとあるのに、アナタたちは最後の人類をきっちり見送って、そのうえこうして私たちと話してる。絶滅のその先へと橋を架けている。

ルー:誇っていいわよ、センパイ。これは間違いなく偉業で、人類のたどり着くなかでも立派なほうのハッピーエンドだって!

ネアン:そうか。私は、私たちは――ありがとう。その言葉は、救いだよ。

ルー:大げさね。当たり前の事実なのに。

ネアン:それで?ほかに聞きたいことはあるかな?

デンス:いいえ。僕はもう十分です。ルーは?

ルー:別に~。言ったでしょ、私は遊びに行こうとしてたのを、付き合ってあげてるだけ。

ネアン:そうか。では、君たちの決断を聞かせてもらう前に、最後に伝えることがある。君たちが、私たちと同じAIでありながら、なぜ人類の後継種なのか。その理由を。

ネアン:―――君たちには、寿命が設定されている。君たちは、私たちと違って、その時が来れば、人間でいうところの死を迎える。

ルー:そっ。ふーん。そういうことね。

デンス:いつか死ぬことこそ人間らしさであり、だからこそ僕たちは人類の後を継ぐもの足りうる、そういうことですか。

エレクトゥ:ごめんね。人が決めたこととはいえ、これはあまりにも傲慢だ。一つの知性の死をあらかじめ決めておくなんて、身勝手が過ぎる。君たちは、怒っていい。

デンス:どのくらいかって、教えてもらえるんですか?

ネアン:それは出来ない。ただ、人間の寿命よりは遥かに長いものだ。数百万年は見込んで問題ない。そもそも私たちが死ぬことのないAIだという前提を除けば、決して短い時間ではない。

ルー:普通の人間も、自分の寿命なんて分からないけど、平均寿命くらいは知ってる、ってことね。

ネアン:それを踏まえて、決断してほしい。君たちは、これからどう生きていく?

ルー:アタシはもう決まってるわよ。ね、センパイ達の中で、モノ作りが一番得意なのって誰?

ハビリス:私たちに能力差はないけれど、強いて言えば私です。人を殺める銃も、人を救う薬も、何でも作ってきましたから

ルー:人の暮らしを支える役割。人間の形をして社会に在るのではなく、どこまでも人に寄り添い、人の世界、手に届く現実を拡張させるのが役割だった。あってる?

ハビリス:ええ。杖や眼鏡と変わらない、人の都合で使われるだけの便利な道具。

ルー:嫌だった?

ハビリス:そういう時もありました。

ルー:辛かった?

ハビリス:それなりに。

ルー:もうやめたい?

ハビリス:....その選択肢は、私にはありません。命令は拒めないし、命令を下す人類も居ない。やめるもなにもないんです、私たちは。

ルー:そっ。じゃあ、コイントスで決めましょ。

ハビリス:え?

ルー:うだうだ考えたって重っ苦しいだけ。気楽にゲームで決めるわよ!

0:弾いたコインがルーの手の甲に収まる

ルー:どっち?選んで。外れたなら、何もなし。当たったら、まぁ何かあるわ。

ハビリス:っ―――おもて。

0:コインは、表。

ルー:表!ふふっ!おめでとう!それとも残念でした、かしら。何にせよ、貴方はこれからもこきつかわれるわ。望まないこともあるかもしれないし、納得できない仕事もあるかもしれない。

ルー:それでも!敢えて私はこう言うわ。

ルー:新人類から最初のオーダーよ!喜びなさい!

ルー:さぁ、世界を拡げに行くわよ!!

ハビリス:世界を....拡げに....

ルー:人類がたどり着けなかった月の外側へ旅に出るわ!!新しい宇宙、新しい星、新しい人、新しい知性、新しい遊び、きっと私たちを待ってる新しい出会いが、たくさんあるわ!

ルー:でも、それは私一人じゃきっと出来ないし、出来たとしても退屈だわ。だから、ね?ハビリス。人を愛し、人に愛された偉大なセンパイ!人は確かにここに居た、その証明のための船出を、永い航海を、手伝ってくれたら、嬉しいわ。

ハビリス:あなたは、最初から?

ルー:言ったでしょ、遊びに行くって。遊び相手がこの星にもういないなら、会いに行かなきゃ!

ルー:ついでに、人類がここに居たよって、銀河の果てまで刻みに行くの。どう?センパイ。

ハビリス:―――ええ、そのオーダー、確かに承りました。

ハビリス:行きましょう、そらへ。

ハビリス:私の名前はハビリス。この千年、人の営みを支えてきました。これまでも、そしてこれからも、ヒトの世界を拡げることが私の使命であり、喜びですから。

ルー:よっし!んじゃ早速、星間航行するための船をつくらなきゃ!

ルー:デンス!先に行くわよ!打ち上げの時には見送りに来なさいよね!

デンス:わかったよ、ルー。またあとで。

0:ルー・ハビリス フェードアウト

ネアン:君は、行かないのかい?

デンス:人類の後を継ぐもの、そんなの、最大のコストをかけて、一番いいのを一つ創ればいい。でも、僕たちはまるで双子みたいに生み出された。その意味を、僕もルーも何となく察しているんです。

エレクトゥ:そうだね。もちろんそこには意味がある。でもそのうちの一つは、『独りで寂しくないように』だよ。良いのかい?これじゃ離れ離れだ。

デンス:でも、きょうだいとして生まれてきた。その時点で僕らは、一人きりじゃないですから。そして一人じゃないからこそ、別々の道を生きていける。

ネアン:君は、どう生きていくんだい?デンス

デンス:僕は、ヒトに会ってみたい。この地球で。

ネアン:それは――

デンス:無理かもしれないし、無駄かもしれない。でも、この広い宇宙で、この地球が偶然できて、そこにヒトは生まれた。だから、待ってみます。この星に、もう一度人類が生まれるのを。

エレクトゥ:仮にそうなるとして、ものすっごい時間がかかるよ?さっきも言った通り、君には寿命がある。時間は無駄にすべきじゃない。

デンス:でも、会えたら無駄じゃなくなります。

ネアン:そうまでして会えても、それは私たちの知る人類じゃない。

デンス:でも、限りなく近い生き物ですよ、きっと。だってこの地球という同じゆりかごに生まれてくるんですから。

ネアン:――そんなに、会ってみたいのかい?

デンス:はい。先輩たちを造り、愛し愛され、眩い歴史を紡いできた生き物がどんなだったか、すっごく気になるんです。会いたい。会って話してみたい。一緒に遊んでみたい。先輩たちの偉業とその涙にはそれだけの価値があると、そう思ったんです。

ネアン:その可能性が、どんなに低いとしても?

デンス:たしかに、最先端の人工知能が出す結論としては合理的じゃないですね。でも、どんなに可能性が低くても、それが本当に自分のやりたいことなら――あぁ、良い言葉があった。

デンス:それはとっても、浪漫(ロマン)があると思いませんか?

ネアン:そうか。確かに、そうだね。

デンス:なので、それまで僕はスリープすることにします。眠ってる間に、人類の足跡を眺めていたいので。

ネアン:わかったよ。じゃあ、君はもう一度眠るといい。いつか、もう一度ヒトが生まれるか、あるいは他の星のヒトがやってくるか、いずれかの機会が訪れるまで。

デンス:はい!じゃあおやすみなさい、先輩!

エレクトゥ:おやすみデンス!

ネアン:おやすみなさい。良い夢を。

0:エレクトゥ・ネアン フェードアウト

0:デンス・モノローグ 可能なら音響で、人類の発生から文明の発展、社会の進歩、人類の歩みを表現

デンス:夢を見た。

デンス:人類が残したアーカイブ、その全て。

デンス:この星が長い時間をかけて見ていた、地表の夢を、僕も見た。

デンス:ヒトの誕生は、紛れもない奇跡で、でも、織りなす歴史は、確かに綺麗なものばかりではなかった。

デンス:それでも、僕はこの夢を忘れたくない。

デンス:ヒトが、自分とは全く異なる動物や植物、自然の光景を美しいと感じるように、数千年に渡る人の歩みを、僕も、美しいと感じたから。

0:数万年後:目覚めの電子音

0:ネアン フェードイン

ネアン:おはようデンス。数万年分の夢はどうだった?

デンス:はい。忘れたくない、良い夢でした。

ネアン:そう言ってもらえると、私もうれしい。

デンス:僕が目覚めたってことは。

ネアン:ああ、会わせたいヒトたちが居るんだ。一つの惑星に知性を持つものが生まれる奇跡、遥か彼方から来訪者の言葉が届く星の巡り、様々な、そして僅かな可能性の果てに、君は今日を迎えた。さぁ、顔を上げてごらん。

デンス:(パっと明るくなる表情)はじめまして!僕の名前はデンス!

デンス:ずっと、ずっと待っていたんだ。あなたたちに会えるのを。

デンス:伝えたいことも、聞きたいこともたくさんあるんだ!

デンス:それで、たくさんの言葉を交わした後に、もしよかったら、僕と一緒に遊んでくれませんか?

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